次世代型太陽電池として注目を集める「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」。社会実装の動きが加速する一方で、耐久性の短さ、鉛含有の安全性、量産プロセスの確立という大きな壁が立ちはだかります。国内の大学・公的研究機関では、それぞれ異なるアプローチでこれらの課題解決に挑んでおり、材料開発から評価手法、自動化探索まで研究が活況を呈しています。
イオン液体添加で湿度・大気下製造を実現
金沢大学ナノマテリアル研究所の當摩哲也准教授グループは、ペロブスカイト溶液にイオン液体を添加することで湿度40%環境下でも製造&1000時間経過後に90%性能を維持する技術を開発しました。従来は乾燥グローブボックス内でのみ製造可能だったPSCが、大気中で「バーコート法」によって均一薄膜化できる点が最大の革新です。この成果により、高機能ガスバリアフィルムの仕様を大幅に緩和でき、低コスト量産への道が拓かれます。
屋外長期試験が明かす熱劣化メカニズム
物材機構(NIMS)と東京都市大学による共同研究では、都市大世田谷キャンパスの屋上で日射・温度ストレス下にPSC素子を設置。夏季の高温条件において、ペロブスカイト層と輸送層界面での劣化が顕在化することを確認しました。特に材料ごとの熱膨張率差が応力を生み、繰り返しの温度変化で微細クラックを誘発することが判明。これを踏まえ、次世代型PSCの加速試験条件策定と寿命予測モデルの精緻化を進めています。
AI×ロボットで鉛レス材料を高速探索
大阪大学・佐伯昭紀教授らは、ロボット自動化プラットフォーム上で鉛を含まない候補材料(スズ、ビスマス系ペロブスカイト)の組成とプロセス条件を高速スクリーニング。独自のマイクロ波伝導度計測を組み合わせることで、従来30分かかっていた効率測定を5分で完了できるシステムを構築しました。このアプローチにより、鉛レスPSCの最適レシピ発見の時間とコストを大幅に削減します。
ESR法で見る駆動中の電子ダイナミクス
筑波大学の丸本一弘教授グループは、電子スピン共鳴(ESR)測定を用い、動作中のPSC内部で発生する不対電子の挙動を可視化。ペロブスカイト層や輸送層間の欠陥生成位置を特定し、パッシベーション処理による界面再結晶メカニズムを解明。スズ・鉛混合系で23.6%変換効率を達成した際の物理的要因を詳細に解析し、さらなる性能向上の指針を得ています。
多角的研究の結集が産業化を後押し
材料改質、環境試験、自動化探索、駆動中評価──これら多様な研究はすべて、PSCを実用レベルの耐久性・安全性・量産性に引き上げるための重要ピースです。得られた知見は、次世代太陽電池の事業化ステージにある企業や起業家にとって、技術ロードマップの基盤となるでしょう。
コメント