海水と淡水の塩分差を利用した「塩分濃度差発電」で、国内109河川河口設置時の発電量を山梨大学グループが初めて詳細に予測しました。得られた結果は、1基あたり平均6MWと、太陽光(4MW)や風力(13MW)に匹敵するレベルと判明。信濃川、石狩川、木曽川など大河川の上位を占め、再エネポートフォリオへの新たな選択肢として注目されます。
浸透圧を活用した発電原理の概要
塩分濃度差発電は、海水と河川水の塩分差が生む「濃度差エネルギー」を浸透圧で水流に変換し、タービンで発電する技術です。塩分の薄い淡水側から濃い海水側へ水分子が移動する際の浸透流を利用します。理論上、全世界で利用可能なこのエネルギーは1TW以上に達し、世界の電力需要の約20%を賄えるとされています。
実際のシステムは、耐塩・高透過膜(RO膜など)を挟んで両側の水位差をつくり、メガ流量を生み出す構成です。山梨大グループは各河川の流量、塩分濃度、水温、膜透過係数を組み合わせ、シミュレーションにより発電量を予測しました。
主要河川110地点の発電ポテンシャル比較
- 信濃川(長野・新潟県):最大約12MW
- 石狩川(北海道):約10MW
- 木曽川(長野・愛知県):約8.5MW
109河川を調査した結果、信濃川など大河川で最も高出力を見込める一方、中小河川では1〜3MWと差がありました。1基あたりの平均6MWは、一般的な大規模太陽光発電所(約4MW)や陸上風力タービン(約13MW)の規模に匹敵する数値です。
国内初の実用化事例:福岡市「まみずピア」
塩分濃度差発電は2025年度、福岡市・海水淡水化センター「まみずピア」で国内初の商用運転を開始予定です。
- システム概要:下水処理水(淡水)と高濃縮海水をRO膜で分離し、得られる浸透流をタービン駆動用に利用
- 出力見込み:約0.5MW規模で24時間運転が可能
このプロジェクトは、デンマークの先行モデルに次ぐ世界第2例目となり、地域の水循環と再エネを両立させる取り組みとして注目されています。
技術的・経済的課題と現場での検証
塩分濃度差発電の導入課題は主に以下の通りです:
- 膜コスト/耐久性:高効率かつ長寿命な耐塩膜の開発が鍵。現状では交換サイクルが5年程度と短く、運転コストに影響します。
- 海洋環境影響:淡水・海水の混合排水が生態系に与える影響を最小化する排水設計が必要です。
- 系統接続と送電インフラ:河口部は送電網から遠い場合が多く、専用送電線の整備が求められます。
山梨大ではこれらの課題に対し、実地試験とコスト分析も併行中で、「2026年までに実証プラントを複数河川で稼働させる予定」(島弘幸教授)としています。
複合再エネポートフォリオへの組み込み可能性
塩分濃度差発電は、太陽光・風力の昼夜・季節変動を補完する発電特性を持つため、複合的な再生可能エネルギー戦略において重要性が増しています。IPP(独立系発電事業者)や水資源企業は、塩分差発電を基地局電源、離島や沿岸地域のマイクログリッド、工業冷却用電源など多用途で検討中です。
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