創業の歩み:自宅から始まったものづくり
三幸電機製作所は、先代社長が自宅の一室でフェノール樹脂の成形加工を始めたことからスタートしました。当初は限られた設備と人員での小規模な運営でしたが、品質へのこだわりと技術力の向上により、徐々に取引先を増やし、事業を拡大していきました。その後、インジェクション成形加工を主体とする法人組織として発展し、現在の武蔵村山市に本社・工場を構えるまでに至りました。
近藤伸二社長の経歴:商社から製造業への転身
現社長の近藤伸二氏は、大学卒業後、総合商社・丸紅の子会社に勤務し、主に貿易業務に従事していました。その後、家業を継ぐために三幸電機製作所へ入社し、2000年代前半に父親から経営を引き継ぎました。商社で培った国際的な視野とビジネス感覚を活かし、同社の経営改革や新規事業の開拓に取り組んでいます。
環境配慮型素材「東京未来素材」の開発
リーマン・ショック後の受注減少を契機に、近藤社長は外需依存からの脱却を図り、国内向け製品の開発に着手しました。その中で出会ったのが、紙パウダーを主成分とするバイオマス素材です。同社はこの素材を用いて、紙パウダーが51%以上含まれる「東京未来素材」を開発しました。この素材は、可燃物として廃棄可能であり、焼却時に有害なダイオキシンガスを発生しない特性を持ちます。また、耐熱性や耐寒性にも優れ、電子レンジや食洗機での使用も可能です。この素材を使用した食器類は、地方自治体のイベントなどで採用され、成長しています。
現場主義と顧客志向の経営
近藤社長は、製品開発において現場主義を徹底しています。展示会や即売会に積極的に参加し、顧客の声を直接聞くことで、製品改良や新商品のアイデアを得ています。例えば、ある即売会で「サーモンピンク」という色名が顧客に好評だったことから、製品名に採用し、販売促進につなげました。また、ハート型の皿を試作した際には、バレンタインデーなど限られた日にしか需要がないことを小売店から学び、製品ラインナップの見直しを行いました。
環境問題への提言:中堅企業の視点から
近藤社長は、中堅企業が環境問題に取り組む上での課題について、以下のように提言しています。
- 法制度の整備:日本の法律が変わらなければ、中堅企業の環境対策は進まない。多くの企業がトップランナーになることを避け、失敗を恐れているため、法的な後押しが必要。
- エネルギー政策の見直し:原子力発電の再稼働も視野に入れ、安定した電力供給を確保。再生可能エネルギーの導入と併せて、エネルギーミックスの最適化を図るべき。
- 省エネ設備への投資:機械を省エネ性のあるものに変えることは、電気代削減だけでなく、工場見学に訪れる顧客に安心感を与え、企業イメージ向上にもつながる。
今後の展望と課題
三幸電機製作所は、環境配慮型素材のさらなる普及と、新たな市場開拓を目指しています。特に、脱プラスチックやSDGsへの関心が高まる中、「東京未来素材」の需要拡大が期待されます。また、製品の回収・再資源化にも対応し、持続可能な社会の実現に貢献しています。一方で、小規模企業としての課題も抱えており、設備投資や人材確保などの面での支援が求められます。
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