塩分濃度差発電とは
メリット
- 天候・時間帯に左右されず、福岡の施設は設備稼働率約90%を見込む(福岡地区水道企業団などの発表。同じ資料は太陽光発電を10〜20%としている)
- 福岡の施設は海水淡水化施設の濃縮海水と下水処理水という未利用の放流水を使い、正味約110kW・年間最大88万kWhの発電を見込む
- 膜の出力密度は実験室で伸びており、IRENAの技術概要(2014年)はPROで14.4W/m²、中空糸膜の試験で4.4〜16W/m²の報告を挙げている
デメリット・注意点
- 膜のコストが最大の経済的な壁。IRENAの技術概要(2014年)は、膜が設備費の50〜80%を占め、価格を1m²あたり10〜30ユーロから2〜5ユーロへ下げる必要があるとしている。2MWの発電所で少なくとも200万m²の膜が要り、5年ほどで交換・保守が必要になる
- 膜のバイオファウリング(微生物の付着による目詰まり)と水の前処理が技術課題で、大量の海水・淡水を常時供給するインフラが立地条件を制約する
- ノルウェーのStatkraftは2013年12月、競合する技術と並ぶ発電コストを見通せないとして開発を打ち切った(同社発表)
- 海水と淡水の浸透圧差(約26気圧)を電力に変換する再エネ技術
- PRO(加圧遅延浸透)とRED(逆電気透析)の2方式があり、どちらも実証の段階にある
- 技術的な発電ポテンシャルは世界で年間5,177TWhと試算されている(IRENA、2014年)
塩分濃度差発電は、海水と淡水の塩分濃度差が生む浸透圧を電力に変換する再生可能エネルギー技術です。海水の浸透圧は約26気圧に達し、この圧力差が発電の原動力となります。
発電方式はPRO(浸透圧発電)とRED(逆電気透析発電)の2つに大別されます。PROは膜を透過する水流でタービンを回す機械的方式、REDはイオンの移動で直接電気を生む電気化学的方式です。
IRENAの技術概要(2014年)は、世界全体の塩分濃度差発電の技術的ポテンシャルを647GW・年間5,177TWhと見積もっています。これは2011年の世界の電力消費量の23%に相当する規模です。河川が海に注ぐ地点ならどこでも利用可能なため、沿岸国にとって有望な電源となり得る(出典:IRENA)。
PRO(浸透圧発電)の仕組み
PROは半透膜を境に淡水と高濃度塩水を配置する方式です。浸透圧によって淡水側から塩水側へ水が移動し、その水流でタービンを回して発電します。
具体的なプロセスは以下の通りです。
- 半透膜の片側に淡水、反対側に高濃度塩水を流す
- 浸透圧差により淡水が塩水側へ透過する
- 塩水側の体積が増加し、圧力が上昇する
- 加圧された水流をタービンに送り、発電機を駆動する
ノルウェーのStatkraftは2009年11月に世界初のPROプロトタイプを稼働させました。設備は平膜2,000m²を使い、技術的には10kWを出せる設計でしたが、実際の出力は約5kWでした。同社は2MWの発電所の設計を終えて2013年に許可も得ましたが(IRENA、2014年)、2013年12月20日、見通せる将来のうちに競合する技術と並ぶ発電コストにはできないとして、浸透圧発電の開発を打ち切ると発表しました(出典:Statkraft公式発表(2013年))。
RED(逆電気透析発電)の仕組み
- 1浸透圧の仕組みを押さえる
半透膜を境にして淡水が海水側へ移動する「浸透現象」がエネルギーの源。水分子の化学ポテンシャル差を利用する。
- 2PRO方式とRED方式の違いを把握する
PROは浸透圧でタービンを回す水力方式。REDはイオン交換膜でイオンを分離し直接電流を取り出す電気化学方式。
- 3膜技術の現状と課題を確認する
バイオファウリング(膜の目詰まり)と膜コストが商業化への壁。IRENAは水の前処理も課題に挙げている。
REDはイオン交換膜を用いて塩分濃度差から直接電気を取り出す方式です。タービンなどの可動部品が不要なため、構造がシンプルで保守性に優れます。
REDの発電原理は以下の通りです。
- 陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に積層する
- 膜の間に海水と淡水を交互に流す
- 濃度差によりイオンが膜を透過して移動する
- イオンの流れが電流となり、両端の電極から電力を取り出す
オランダではREDStackが2005年に5kWのパイロット設備を始め、その後、富士フイルムと共同で50kWのパイロット設備を締切大堤防(アフスライトダイク)に設けています(IRENA、2014年)。
PRO vs RED比較表
2つの方式には、出力密度・コスト・商用化の進捗に明確な差があります。用途に応じた方式選択が重要です。
| 比較項目 | PRO(浸透圧発電) | RED(逆電気透析発電) |
|---|---|---|
| 発電原理 | 水流でタービン駆動 | イオン移動で直接発電 |
| 発電コストの推計(IRENA・2020年時点を想定) | 0.15〜0.30ドル/kWh | 0.11〜0.20ドル/kWh |
| 可動部品 | あり(タービン) | なし |
| 使う膜 | 半透膜(水だけを通す) | イオン交換膜(陽イオン用と陰イオン用を交互に重ねる) |
| 実証の例 | 福岡で正味約110kWが稼働(2025年8月〜) | オランダでREDStackと富士フイルムが50kWのパイロット設備 |
福岡プラント:国内初の大規模実証
福岡市の海水淡水化施設「まみずピア」に建設された国内初の浸透圧発電施設は、2025年8月5日に発電を開始しました。正味発電電力は約110kW、年間発電量は最大88万kWhを見込む施設で、世界でも2例目です。
同施設の最大の特徴は、海水淡水化施設から放流される濃縮海水と、和白水処理センターから放流される下水処理水を組み合わせる点にあります。通常の海水より塩分の濃い濃縮海水を使うため、浸透圧差が大きくなります。IRENAも、淡水化施設の濃縮水は周囲の海水より塩分濃度が高く、1m³あたりの発電量が増えてコストが下がると指摘しています。
主要スペックは以下の通りです。
- 正味発電電力:約110kW(発電した電力から、設備が使う電力を引いた値)
- 年間発電量:最大88万kWh
- 設備稼働率:約90%
- 原料:海水淡水化施設の濃縮海水と下水処理水
- 工事期間:2024年3月〜2025年4月(2025年5〜7月に機器の調整)
- 役割分担:福岡地区水道企業団が濃縮海水と実証場所を提供、協和機電工業が発電システムを設置・運転、福岡市道路下水道局が下水処理水を提供
設備稼働率約90%は太陽光発電(10〜20%)や洋上風力発電(約30〜40%)を上回る数値です。天候や時間帯に左右されないベースロード電源として機能し得る。
福岡市は1978年と1994年に大規模渇水を経験し、福岡都市圏では2005年から海水淡水化施設「まみずピア」が稼働しています。その濃縮排水を発電に転用する構想は、水インフラと電力インフラの融合として注目されています。
膜技術の進化
膜の出力密度は実験室で伸びてきました。IRENAの技術概要(2014年)は、当時の膜の正味の出力密度を最大2.7W/m²とし、PROの最新の実験では14.4W/m²、中空糸膜の試験では4.4〜16W/m²が報告されているとまとめています。
コストの面では、膜が設備費の50〜80%を占めます。IRENAは、膜の価格を1m²あたり10〜30ユーロから2〜5ユーロへ下げることが、ほかの再エネと競争できる条件だとしています。2MWの発電所には少なくとも200万m²の膜が要り、5年ほどで交換・保守が必要になります。
IRENAが挙げる技術課題は次のとおりです。
- 膜の品質と、丈夫で安い膜を大量につくる技術
- バイオファウリング(微生物の付着による膜の目詰まり)
- 膜を収めるモジュールの開発
- 水の前処理(Statkraftは前処理の費用が非常に高いことを課題に挙げていた)
水素エネルギーと同様、膜技術のコスト低下が商用化の鍵を握る。量産効果による価格低下が進めば、発電コストの大幅な削減が見込めます。
メリット・デメリット
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 福岡の施設の出力 | 正味発電電力 約110kW | 福岡地区水道企業団・協和機電工業・福岡市の発表(2025年7月) |
| 福岡の施設の発電量 | 年間最大88万kWh・設備稼働率約90% | 同上 |
| 事業の位置づけ | 日本初・世界で2例目。2025年8月5日に発電開始 | 同上 |
| 世界の技術的ポテンシャル | 647GW・年間5,177TWh | IRENA 技術概要(2014年) |
| 膜のコスト | 設備費の50〜80%。1m²あたり10〜30ユーロ(2〜5ユーロへの低下が必要) | 同上 |
| 発電コストの推計 | PROで0.15〜0.30ドル/kWh、REDで0.11〜0.20ドル/kWh(2020年時点を想定した推計) | 同上 |
※IRENAは発電コストの推計について、実績にもとづく数字が少なく幅は推測の度合いが大きいと注記している。安い側は既存インフラを使う併設型の値。
塩分濃度差発電は天候に依存しない安定電源である点が最大の強みです。一方、膜の劣化やコストなど実用上の課題も残る。
メリット
- 天候・時間帯に左右されず、福岡の施設は設備稼働率約90%を見込む
- CO₂排出がゼロで、燃料も不要である
- 海水淡水化施設との併設で廃液を有効活用できる
- 北欧諸国のように河川水量が豊富な地域で特に有利である
デメリット
- 膜のコストが高く、交換も要る(IRENAによると膜は設備費の50〜80%。2MWの発電所で少なくとも200万m²の膜が要り、5年ほどで交換・保守が必要)
- バイオファウリング(微生物の付着による膜の目詰まり)と水の前処理が技術課題である
- 大量の海水・淡水を常時供給するインフラが必要である
- 福岡の施設が使うのは淡水化施設の濃縮海水で、発表資料は通常の海水での発電を次の段階に置いている
- IRENAの推計(PROで0.15〜0.30ドル/kWh)は、日本の事業用太陽光の発電コスト(2023年・10.9円/kWh)より高い
- 取水・排水の生態系への影響を詳しく調べた研究が少ない
よくある質問
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塩分濃度差発電の発電コストはいくらか
2025年7月の運転開始の発表資料には、発電コストや建設費の記載がありません。IRENAの技術概要(2014年)は、2020年時点を想定した推計としてPROで0.15〜0.30ドル/kWh、REDで0.11〜0.20ドル/kWhを示しています。1ドル150円で換算すると、PROは約23〜45円/kWhです。IRENAはこの幅について、実績にもとづく数字が少なく推測の度合いが大きいと注記しています。
家庭で使える小型装置はあるか
家庭用の製品は現時点で存在しません。膜の管理や海水・淡水の供給インフラが必要なため、個人利用には適しません。実用化は産業用・系統連系型プラントから進む見通しです。
日本の適地はどこか
海水淡水化施設が既設の地域が最有力です。福岡市のほか、沖縄県や離島の淡水化プラント併設が候補に挙がる。河川が海に注ぐ河口域も潜在的な適地だが、淡水化施設の濃縮排水を使う方が効率は高いです。
他の再エネと組み合わせられるか
可能です。太陽光や風力が出力変動するのに対し、塩分濃度差発電は24時間安定出力を維持します。変動電源の補完としてベースロードを担う運用が想定されます。蓄電池との併用で系統安定化にも貢献し得る。
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