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液体空気エネルギー貯蔵とは?LAES技術の仕組みと効率

更新: 2026/10/20執筆: Japan Energy Times 編集部
再生可能エネルギー
液体空気エネルギー貯蔵とは?LAES技術の仕組みと効率

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広島ガス廿日市工場内のLAES商用実証プラントが2025年12月に運転開始

メリット

  • 液体にすると体積が大気の約1/700になり、大規模・長時間(8時間超)貯蔵に適している
  • 貯蔵中の自己放電がほぼゼロで、季節間の長期保存(夏の余剰太陽光電力を冬に使う)が理論上可能
  • 空気を原料とするため希少金属が不要で、リチウムイオン電池のような資源制約を受けない
  • 2025年12月に広島ガス廿日市工場内の商用実証プラント(住友重機械工業)が商用運転を始めた

デメリット・課題

  • 熱・冷熱を回収するスタンドアロン型でも往復効率は約50〜60%で、揚水発電やリチウムイオン電池より低い
  • 液体空気の製造には1kgあたり約0.6〜0.75kWhの電力を使い、液化コストが大きい
  • 効率をさらに高めるには、LNG冷熱や工場廃熱などの外部の冷熱・熱源と組み合わせることが前提条件
  • 揚水発電(効率70〜85%)と比べると往復効率が低く、適地が限定される揚水に代わる汎用性は示せていない
ポイント
  • 空気を−196℃に冷却・液化して貯蔵し、再気化時のエネルギーで発電する技術
  • 液体にすると体積が大気の約1/700になり、大規模貯蔵に適する
  • 往復効率は熱・冷熱を回収する型で約50〜60%と、揚水発電(70〜85%)より低い

2025年12月1日、住友重機械工業と広島ガスが広島ガス廿日市工場(広島県廿日市市)内に建設した液体空気エネルギー貯蔵(LAES: Liquid Air Energy Storage)の商用実証プラント(5MW×4時間)が、商用運転を開始しました。空気を-196℃に冷却して液化し、体積を1/700に圧縮して貯蔵する技術です。必要な時に液体空気を気化・膨張させてタービンを回し、電力を取り出す。

LAESが注目を集める背景には、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う長時間エネルギー貯蔵の需要があります。太陽光や風力は天候に左右されるため、数時間〜数日分の電力を蓄えられる大規模蓄エネ技術が不可欠です。リチウムイオン電池(LiB)は短時間(2〜4時間)の貯蔵には優れるが、8時間を超える長時間貯蔵ではバッテリーセルの追加コストが直線的に増加し、経済性が急激に悪化します。LAESはこの「長時間貯蔵のギャップ」を埋める有力な候補技術として浮上しています。量子バッテリーのような次世代蓄電技術も研究が進むが、大規模・長時間貯蔵ではLAESが現実的な選択肢です。

LAESの仕組み——3段階のエネルギー変換プロセス

LAESのエネルギー変換は大きく3段階で構成されます。

第1段階:空気の液化(充電)

余剰電力を使って大気中の空気を圧縮・冷却し、-196℃で液化します。この過程は空気分離装置(ASU)の技術をベースにしており、工業ガス産業で長年使われてきた成熟技術です。液体空気1kgの製造に約0.6〜0.75kWhの電力を消費します(2024年のレビュー論文)。

第2段階:液体空気の貯蔵

液化した空気を断熱タンクに貯蔵します。液体空気は-196℃で体積が大気の約1/700になるため、コンパクトなタンクで大量のエネルギーを蓄えられます。貯蔵期間に制限はなく、リチウムイオン電池のような自己放電もありません。この「長期間貯蔵しても損失がほぼゼロ」という特性がLAESの最大の強みです。季節間のエネルギー貯蔵(夏の余剰太陽光電力を冬に使う)にも理論的には対応できます。

第3段階:気化・膨張・発電(放電)

電力が必要な時に液体空気を常温の熱で気化させ、約700倍に膨張させます。この膨張圧力でタービンを駆動し、発電します。気化時に外部からの熱(産業廃熱、低温熱源など)を活用すれば、システム全体の効率が大幅に向上します。

往復効率は構成次第で大きく変わる——幅の大きさをどう解釈するか

LAES技術を理解するための3ステップ
  1. 1
    液化プロセスの原理を把握する

    圧縮→冷却→膨張のサイクルで空気を液化。廃熱や冷熱を回収するコールドリサイクルがシステム効率の鍵を握る。

  2. 2
    発電プロセスを確認する

    液体空気を大気圧まで気化させ、その膨張力でタービンを回す。工場廃熱を組み合わせると効率が大幅に向上する。

  3. 3
    適用規模と競合技術を比較する

    10MW〜100MW規模のグリッド蓄電が主な用途。揚水発電・圧縮空気貯蔵(CAES)と立地条件や初期コストで比較する。

LAESの往復効率(充電した電力のうち放電で回収できる割合)は、報告値に大きな幅があります。2024年のレビュー論文(Renewable and Sustainable Energy Reviews)は、熱・冷熱を回収するスタンドアロン型で約50〜60%、外部の冷熱・熱源を足すハイブリッド型で約50〜90%、液体空気を製造地から運んで使う分離型で約20〜50%としています。この幅の大きさを理解することが、LAES技術を正確に評価するための鍵です。

数字の違いは、圧縮時の熱や気化時の冷熱をどこまで回収・活用できるかという条件の違いに由来します。

効率が低くなる条件

空気の液化プロセスは熱力学的にエネルギー集約的であり、圧縮・冷却時に大量の熱が発生します。この排熱を回収できなければ、システム全体のエネルギー損失が大きくなります。液体空気を製造地から運んで使う分離型では冷熱の回収が難しく、往復効率は約20〜50%にとどまります(同レビュー)。

効率が高くなる条件

圧縮時の熱を蓄えて放電時に使い、気化時の冷熱を蓄えて次の液化に使う(熱・冷熱の回収)と、効率は約50〜60%になります。さらにLNG冷熱や工場の廃熱など外部の冷熱・熱源を組み合わせるハイブリッド型では、約50〜90%とされます(同レビュー)。廃熱利用がLAESの経済性を左右する決定的な変数です。

他のエネルギー貯蔵技術との効率比較

LAESの往復効率は揚水発電やリチウムイオン電池を下回るが、長期貯蔵では優位に立つ。

揚水発電(往復効率70〜85%)

最も実績のある大規模蓄エネ技術です。往復効率は70〜85%と高いです。ただし大規模なダムと上下池が必要であり、適地が限られます。新規建設には10〜20年の期間と巨額の投資が必要です。日本では現在約2,700万kWの揚水発電設備があるが、新規適地はほぼ枯渇しています。

リチウムイオン電池(往復効率85〜95%)

往復効率は85〜95%と最高水準です。応答速度が速く(ミリ秒単位)、短時間(2〜4時間)の需給調整に最適。ただし長時間(8時間以上)の貯蔵ではコストが直線的に増加します。寿命は10〜15年(サイクル数3,000〜6,000回)で、大規模設置では資源制約(リチウム・コバルト)と廃棄問題も課題です。蓄電池の設置・移設に関する詳細は別記事を参照してください。

LAES(往復効率 約50〜60%)

効率では揚水発電やLiBに劣る。しかし立地制約がなく(水やダムが不要)、貯蔵期間に制限がなく、容量の拡大がタンクの追加だけで可能という柔軟性があります。長時間・大規模貯蔵のニッチにおいて、揚水発電の代替として最も有望な候補のひとつです。圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)も競合技術だが、CAESは地下空洞(岩塩層など)が必要であり、日本国内には適した地質構造が少なくありません。立地制約の少なさでLAESはCAESに優る。

世界の主要LAESプロジェクト

世界の主要LAESプロジェクト比較
施設名・プロジェクト 所在地 出力容量 貯蔵容量 ラウンドトリップ効率 稼働年・状況
住友重機械工業 廿日市エネルギー貯蔵発電所(商用実証) 広島県廿日市市(広島ガス廿日市工場内) 5MW(充電4MW) 20MWh(5MW×4時間) — 2025年12月1日 商用運転開始
Highview Power カーリントン 英国(マンチェスター近郊) 50MW 300MWh(6時間) — 2025年11月着工・建設中(第1期の系統安定化設備は2026年から運転の予定)

※出典:住友重機械工業・広島ガスの発表(2025年12月10日)、Highview Powerの発表(2025年11月21日・2026年5月19日)と公式サイトのプロジェクト一覧をもとに編集部が整理。「—」は発表に効率の数値が無いもの。稼働状況・効率は時点により更新される場合がある。

住友重機械工業・広島ガス(日本)——2025年12月商用運転開始

住友重機械工業と広島ガスはパートナーシップを組み、広島ガス廿日市工場(広島県廿日市市)内にLAES商用実証プラント「住友重機械工業 廿日市エネルギー貯蔵発電所」を建設しました。2025年12月1日に商用運転を始め、容量は5MW×4時間貯蔵(充電4MW)です。両社は、液体空気をつくる過程にLNG(液化天然ガス)の冷熱を供給して充電効率の向上を図る、世界初のLAES商用プラントとしています。設計・建設・運転は住友重機械工業が担い、広島ガスはLNG冷熱を供給します。発表に効率の数値は含まれていません。LNGの冷熱は-162℃であり、空気の液化温度-196℃に近いため、液化に必要なエネルギーを減らせます。

Highview Power カーリントン(英国)——50MW/300MWh

英国のHighview Power社は、マンチェスター近郊カーリントンのTrafford Low Carbon Energy Parkで、同社が世界最大の商用規模とするLAES施設を建設しています。出力50MWで6時間、300MWhを貯蔵する計画で、2025年11月に着工式を行いました。公式サイトは、第1期の系統安定化設備(stability island)を2026年から運転するとしています。貯蔵部分の運転開始時期は示されておらず、2026年5月の同社の発表でも、建設は進行中です。建設資金として、National Wealth Fund・Centricaなどから3億ポンドを調達しました。次の計画として、スコットランドのハンターストンで3.2GWhの施設を進めています。

LAESの経済性——kWhあたりのコスト

LAESのkWhあたりのコストは、貯蔵時間の長さで評価が変わります。

長時間貯蔵でのコスト優位性

LiBは貯蔵時間の延長に伴いコストが直線的に増加する(バッテリーセルの追加が必要)。LAESは貯蔵時間の延長に必要なのはタンクの増設のみです。8時間以上の貯蔵ではLAESのkWhあたりコストがLiBを下回る可能性があります。

スケールメリット

LAESは大規模化するほどkWhあたりコストが低下します。Highview Powerの50MW/300MWhプロジェクトが成功すれば、コスト低減の実績データが得られ、次のプロジェクトへの投資を呼び込む好循環が期待されます。

LAESの強み——なぜ注目されるのか

立地制約がほぼない

揚水発電のような地形的条件が不要であり、平地のどこにでも設置可能です。工業地帯や港湾地区など、既存のインフラに近接した場所に設置できる柔軟性があります。

長寿命・低劣化

LAESの主要コンポーネント(圧縮機・タンク・タービン)は工業用機械で、メーカーのHighview Powerは、LAESは劣化なしで40〜50年運転できるとしています。リチウムイオン電池の10〜15年(サイクル数3,000〜6,000回)より長く、ライフサイクルコストで優位に立てる可能性があります。容量劣化がないため、20年後でも充放電効率はほぼ変わらない。

環境負荷が低い

作動流体は空気(窒素78%、酸素21%)であり、有害物質を一切含みません。使用済みバッテリーの廃棄問題やリチウム採掘の環境破壊リスクが存在しません。

LAESの課題と限界

往復効率の低さ

熱・冷熱を回収しても約50〜60%という効率は、揚水発電(70〜85%)やLiB(85〜95%)と比べて大きなハンデです。常温超伝導技術が実現すれば圧縮機やタービンの効率が向上し、LAES全体の効率改善に寄与する可能性があるが、現時点では廃熱との組み合わせが効率向上の現実的な手段です。

廃熱源への依存

高効率運転には産業廃熱やLNG冷熱の利用が不可欠です。適切な熱源がない立地ではLAESの経済性が大幅に低下します。LNG基地や工業団地に隣接した設置が効率の面で最適だが、立地選択の自由度を制約する要因にもなります。

応答速度

LiBのミリ秒単位の応答速度と比較すると、LAESの起動には数分〜十数分を要します。周波数調整のような瞬時応答が求められる用途には適しません。ピークシフトや日間調整など、計画的な放電に向いている技術です。

エネルギー貯蔵技術の比較表

再生可能エネルギーの導入拡大と長時間エネルギー貯蔵(LDES)の需要増を背景に、商用プラントの建設が進んでいる。

エネルギー貯蔵技術 往復効率 設備寿命 長時間貯蔵(8h+) 立地制約
揚水発電70〜85%50年以上◎山間部必須
リチウムイオン電池85〜95%10〜15年△(コスト急増)なし
CAES(圧縮空気)40〜70%30〜40年◎地下空洞必須
LAES(液体空気)約50〜60%*40〜50年(メーカー公称)◎なし

*熱・冷熱を回収するスタンドアロン型の値。外部の冷熱・熱源を足すハイブリッド型は約50〜90%、液体空気を製造地から運んで使う分離型は約20〜50%(Renewable and Sustainable Energy Reviews 2024年のレビュー論文)

日本のエネルギー貯蔵ニーズとLAESの適合性

日本は2030年に再エネ比率36〜38%を目標に掲げています。太陽光発電の導入量は急速に拡大しているが、昼間の発電ピークと夕方〜夜間の需要ピークの時間的なミスマッチが課題です。九州本土ではすでに太陽光・風力の出力制御(カーテイルメント)が続いており、2025年度の出力制御率は約6%(制御電力量 約10億kWh)の見通しです(九州電力送配電、2025年9月)。余剰電力の有効活用が喫緊の課題となっています。

LAESはこの余剰電力を長時間貯蔵し、需要ピーク時に放電する用途に適しています。特に日本はLNG輸入量が世界トップクラスであり、全国の沿岸部にLNG基地が稼働しています。LNG冷熱を活用したLAESは日本の地理的・産業的条件に極めて適合した技術です。揚水発電の新規建設が困難な中、LAESは長時間蓄エネの現実的な代替手段として期待されています。

北欧諸国の再エネ先進事例を見ても、再エネ比率の向上にはエネルギー貯蔵技術のポートフォリオが不可欠であることがわかる。日本がLNG冷熱という独自の資源を活かしてLAESを発展させることは、世界のエネルギー貯蔵技術に対する貢献にもなります。

よくある質問

Q. LAESで使う「液体空気」は危険ではないのか?

液体空気は-196℃の極低温流体であり、取り扱いには専門的な安全管理が必要です。ただし液化天然ガス(LNG)や液体窒素と同等の技術で安全に管理でき、これらの産業は数十年の安全実績があります。磁気冷凍技術と同様に、極低温を扱う技術分野の安全管理ノウハウが応用されています。

Q. 家庭用のLAESシステムはあるのか?

LAESは大規模(MW級)の産業用技術であり、家庭用は存在しません。家庭レベルのエネルギー貯蔵にはリチウムイオン蓄電池が適しています。

Q. LAESの寿命はどのくらいか?

主要機器(圧縮機・タービン・タンク)は工業用機械で、メーカーのHighview Powerは、LAESは劣化なしで40〜50年運転できるとしています。LiBの10〜15年と比較して長いです。定期的なメンテナンスは必要だが、容量劣化はほぼしません。

Q. 日本でLAESの導入が進む見込みはあるのか?

広島ガス廿日市工場内の商用実証プラント(2025年12月運転開始)が先行事例となり、LNG基地が多い日本ではLNG冷熱活用型LAESの展開が期待されます。

Q. LAESとリチウムイオン電池は競合するのか?

直接的な競合よりも、補完関係になる可能性が高いです。LiBは短時間(2〜4時間)の需給調整、LAESは長時間(8時間以上)の貯蔵という役割分担が想定されます。両者を組み合わせたハイブリッドシステムが最適解になる場合もあります。電力系統の安定化には、応答速度の速いLiBと大容量・長時間のLAESを組み合わせた多層的な蓄エネ戦略が有効です。

エネルギー貯蔵技術を比較検討するための情報源

あわせて読みたいフライホイール蓄電は普及する?機械的エネルギー貯蔵特徴

LAESは長時間エネルギー貯蔵の有力候補として急速に注目度を高めています。廿日市の商用実証と、Highview Powerが建設中のカーリントン(50MW/300MWh)の成否が、この技術の将来を左右します。以下の情報源で最新動向を追跡してください。

  • Highview Power公式サイト——カーリントン(50MW/300MWh)などのプロジェクトの進捗を確認できます
  • LDES Council(長時間エネルギー貯蔵協議会)——LAES・圧縮空気・重力蓄電など長時間貯蔵技術の業界団体。技術比較レポートやコスト予測データを公開している
  • BloombergNEF Energy Storage Outlook——世界のエネルギー貯蔵市場の年次予測レポート。LiBとLAESのコスト比較データが充実
  • 塩分濃度差発電の技術動向——LAESと同様に実用化移行段階にある新興エネルギー技術。再エネの安定供給を支える技術ポートフォリオの一角として注目すべきだ

LAESは揚水発電の新規建設が困難な日本において、長時間エネルギー貯蔵の切り札となる可能性を秘めています。往復効率の低さという課題はあるが、LNG冷熱や産業廃熱との組み合わせで大幅に改善できます。廿日市の商用実証で得られる実績データに注目しつつ、再エネの大量導入時代を支える長時間蓄エネインフラとしてのLAESの可能性を見守りたい。

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この記事の執筆: Japan Energy Times 編集部
電気代・再生可能エネルギー・省エネの一次情報(公式統計・料金表・制度資料)を確認して記事を制作しています。
カテゴリ:再生可能エネルギー

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