Japan Energy Times

磁気冷凍技術は実用化する?新冷却技術の省エネ可能性

更新: 2026/10/07執筆: Japan Energy Times 編集部
省エネ・節約
磁気冷凍技術は実用化する?新冷却技術の省エネ可能性

※ 当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

磁気冷凍は実用化したのか——業務用は販売中、家庭用は試作機まで

ポイント
  • 業務用の小型機は販売が始まっています。ドイツのMAGNOTHERMは、缶飲料クーラー「POLARIS」(冷却能力100W)を「世界で初めて市販された磁気冷却機」として公式サイトで購入・レンタルの問い合わせを受け付けています(2026年10月時点)
  • 家庭用の冷蔵庫・エアコンは、2015年にBASF・ハイアール・Astronauticsがワインクーラーの試作機を公開しました。販売中の製品は、ハイアールやGE Appliancesの公式サイトの冷蔵庫の案内に載っていません(2026年10月時点)
  • 省エネ効果として公表されている「20〜35%」は理論値・見込み値です。実測値として公表されているものには、中部電力の2006年の試作機(冷凍能力540W・成績係数1.8)があります

磁気冷凍は、フロンなどの冷媒ガスを圧縮・膨張させる代わりに、磁石と磁性体で熱を運ぶ冷却技術です。「実用化するか」という問いには、用途を分けて答える必要があります。業務用の小型の飲料クーラーは、すでに販売されています。家庭用の冷蔵庫やエアコンは2015年の試作機の公開までで、販売中の製品は各社の公式サイトに載っていません(2026年10月時点)。

冷やす技術の省エネが注目される背景には、消費電力の大きさがあります。国際冷凍協会(IIR)は、世界で稼働している冷凍・空調・ヒートポンプ機器を約50億台と推計し、冷凍部門が世界の電力消費の約20%を占めるとしています(2019年の報告)。照明や画面の分野でOLEDディスプレイの省エネ性能が論点になるのと同じように、冷却の分野でも方式そのものを見直す研究が続いています。以下、企業と研究機関の公式発表をもとに、原理、実例、省エネ効果の根拠、課題の順に整理します。

磁気熱量効果(MCE)——磁気冷凍の物理原理

磁気冷凍技術のメリット

  • フロンなどの冷媒ガスを使わず、熱を運ぶ媒体は水や水とアルコールの混合液です
  • コンプレッサーを使わないため、静かで振動が少ないという特徴があります(中部電力・BASFの発表)
  • 理論上は蒸気圧縮式より最大35%高効率という研究があります(BASFの2015年の発表)

デメリット・課題

  • 販売されているのは業務用の小型機で、家庭用の冷蔵庫・エアコンは各社の公式サイトに載っていません(2026年10月時点)
  • 永久磁石で作れる磁場には限りがあり、大きな冷却能力を得るには磁場の強化か材料の改良が要ります
  • 代表的な磁気冷媒のガドリニウムは希土類で、希土類の鉱山生産は中国が約69%を占めます(米国地質調査所・2025年の推計値)

磁気冷凍の根幹をなすのは「磁気熱量効果(Magnetocaloric Effect: MCE)」です。磁性体に磁場をかけると温度が上がり、磁場を取り去ると温度が下がる現象です。

原理の詳細

磁性体の原子は、小さな磁石にあたる磁気モーメントを持っています。外から磁場をかけると磁気モーメントの向きがそろい、磁気に関するエントロピー(乱雑さ)が減ります。熱の出入りが無い条件では、減った分だけ原子の熱振動のエントロピーが増えるため、磁性体の温度が上がります。

磁場を取り去ると、磁気モーメントの向きがばらばらに戻り、磁気に関するエントロピーが増えます。このとき周囲から熱を吸うため、冷却に使えます。物質・材料研究機構(NIMS)と科学技術振興機構(JST)の発表も、磁気モーメントの向きがそろった状態から不規則な状態に変わるときにエントロピーが増大して吸熱が起きる現象として説明しています。

磁気冷凍サイクルの4ステップ

磁気冷凍は次の4段階で動きます。(1)磁場をかける:磁性体の温度が上がります。(2)放熱:熱を運ぶ液体を流して、高温側へ熱を捨てます。(3)磁場を取り去る:磁性体の温度が下がります。(4)吸熱:冷えた磁性体が、液体を通じて冷やしたい側から熱を奪います。このサイクルを繰り返すことで連続して冷やします。磁性体の温度変化と液体の流れを同期させて使える温度差を作る方式は、能動的蓄冷式磁気冷凍(AMR)と呼ばれ、MAGNOTHERMの製品やNIMSの水素液化の実験で使われています。蒸気圧縮式の「圧縮→凝縮→膨張→蒸発」に対応する仕組みですが、コンプレッサーは使いません。

ガドリニウム——代表的な磁気冷媒とその課題

磁気冷凍の現在地を理解する3ステップ
  1. 1
    MCE(磁気熱量効果)の原理を把握する

    磁場をかけると温度が上がり、取り去ると下がる現象を使います。コンプレッサーを使わず、熱は水などの液体で運びます。

  2. 2
    フロン規制との関係を確認する

    キガリ改正により、先進国はHFCの生産・消費を2036年以降、基準値の15%まで減らします(85%削減)。磁気冷凍は冷媒ガスを使いません。

  3. 3
    どこまで製品になっているかを確認する

    販売されているのは業務用の飲料クーラー(冷却能力100W)です。1kW級の店舗向けは小売企業と組み込みを進める段階、家庭用は2015年の試作機までです。

磁気冷凍に使う磁性体(磁気冷媒)の代表格がガドリニウム(Gd)です。米国と日本の試作機で使われてきた金属で、性質と供給の両面から確認します。

ガドリニウムの特性

ガドリニウムは、キュリー温度(強い磁性を失う温度)が室温に近い金属です。純度の異なる4つの試料を複数の方法で測った1998年の論文は、磁場ゼロでのキュリー温度を294K(約21℃)と報告しています。磁気熱量効果はキュリー温度の近くで大きくなるため、室温で使う冷却機に向いています。米国のエイムズ研究所とAstronautics社が1990年代後半に動かした試作機も、中部電力が2006年に発表した試作機も、磁気冷媒はガドリニウムでした。

ガドリニウムは希土類元素です。米国地質調査所(USGS)の「Mineral Commodity Summaries 2026」によると、2025年の希土類の鉱山生産量(推計・酸化物換算)は世界合計39万トンで、中国が27万トンと約69%を占めます。同資料は、中国が2025年4月に希土類の輸出管理を強め、ガドリニウムを含む7元素の合金・化合物・金属・酸化物を管理の対象に加えたことも記しています。供給が特定の国に偏っていることは、ガドリニウムを大量に使う製品を作るうえでの課題です。

ガドリニウム以外の磁気冷媒

ガドリニウムに代わる材料として製品や発表に出てくるのは、主に2つの系統です。1つはランタン・鉄・シリコン系(La-Fe-Si系)の合金で、MAGNOTHERMは自社の製品にこの合金を使い、「豊富な元素だけを使う」と説明しています。ランタンも希土類元素の1つですが、中国が2025年4月に輸出管理の対象に加えた7元素(サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム)には含まれていません。もう1つはマンガンと鉄を主成分とする材料で、BASFがオランダのデルフト工科大学と共同で開発し、「Quice」のブランドで販売すると2015年に発表しました。BASFはこの材料について、豊富で手頃な原料からなると説明しています。

磁性材料メーカーのVacuumschmelze(VAC)は、磁気熱量合金「CALORIVAC」を研究開発中の製品として掲載し、サンプルを要望に応じて提供するとしています。公表されている仕様は、1.5テスラの磁場変化で断熱温度変化2〜4K、対応する温度範囲は100〜350Kです。

フロン規制が磁気冷凍の追い風に

磁気冷凍に取り組む企業は、フロン冷媒への規制を開発の理由に挙げています。Vacuumschmelzeは、Fガス規制(フッ素系ガスの規制)によるHFCの段階的削減を背景に、磁気冷凍を「ガスを使わない代替技術」と位置づけています。規制の中身を確認します。

キガリ改正(モントリオール議定書)

モントリオール議定書のキガリ改正は2016年に採択され、温室効果の高いHFC(ハイドロフルオロカーボン、代替フロン)を削減義務の対象に加えました。議定書の第2J条は、先進国のHFCの生産量・消費量の上限を、基準値に対する割合で次のように定めています。

期間上限(基準値に対する割合)
2019〜2023年90%
2024〜2028年60%
2029〜2033年30%
2034〜2035年20%
2036年以降15%

基準値は、2011〜2013年のHFCの年平均に、HCFCの基準値の15%を足した量(CO2換算)です。2026年は「60%」の期間にあたり、2036年以降は基準値から85%減らした水準が上限になります。

フロン排出抑制法(日本)

日本では、フロン類の回収・破壊を定めていた法律が2013年6月に改正され、名称も「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)」に改められました(2015年4月1日施行)。製造から廃棄までを対象とし、業務用冷凍空調機器の管理者には、簡易点検・定期点検、点検と整備の記録の作成・保存、一定量以上を漏らした場合の国への報告などが求められます。2019年6月の改正では、機器を廃棄するときにフロン類の回収を行わない違反に対して、直接罰が導入されました(2020年4月1日施行)。

冷媒ガスを使わないという特徴

磁気冷凍は、冷媒にあたる部分が固体の磁性体で、熱を運ぶのは水などの液体です。BASFは、気体の冷媒の代わりに水を主成分とする液体を使うと説明し、MAGNOTHERMは、冷媒を使わないため冷媒による直接の地球温暖化係数(GWP)はゼロだとしています。機器を動かす電気をつくるときの排出は別に残るため、温室効果ガスの排出全体がゼロになるわけではありません。

研究開発の最前線——主要プレーヤーと実証プロジェクト

公式発表にもとづく実例を、古い順に並べます。

エイムズ研究所とAstronautics(米国・1990年代後半)

米国のエイムズ研究所とAstronautics社は、ガドリニウムを磁気冷媒に使う磁気冷凍機を開発しました。アイオワ州立大学の1998年2月の広報によると、この装置は過去12か月で約1,200時間運転され、熱を運ぶ媒体には水が使われました。BASFの2015年の発表は、Astronauticsが2001年に永久磁石を使う磁気熱量ヒートポンプを世界で初めて公開したと紹介しています。

中部電力(日本・2006年)

中部電力は2006年11月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受託した開発の成果として、永久磁石を回転させる室温磁気冷凍システムを発表しました。ネオジム系の永久磁石で1.1テスラの磁場をつくり、磁気冷媒にガドリニウム、熱を運ぶ媒体に水とアルコールを使って、冷凍能力540W、成績係数(COP)1.8を達成したという内容です。2003年度に開発した装置は冷凍能力60W・成績係数0.1でした。同社は当時、この2つの値を磁気冷凍システムとして世界最高と説明しています。開発は東京工業大学、北海道大学、九州大学と共同で行われました。

GEとオークリッジ国立研究所(米国・2013〜2016年)

米国エネルギー省(DOE)は、オークリッジ国立研究所(ORNL)とGEによる家庭用の磁気熱量冷蔵庫・冷凍庫の共同研究に210万5,000ドルを拠出しました(期間は2013年8月〜2016年9月)。DOEの最低効率基準より消費電力が20%少ない冷蔵庫・冷凍庫の開発が目標でした。ORNLは2014年5月の発表で、GEが2020年までに家庭用の磁気熱量冷蔵庫を商品化する意向だと伝えています。

BASF・ハイアール・Astronautics(2015年)

化学大手BASF(ドイツ)、家電大手ハイアール、Astronauticsの3社は、2015年1月に米国の家電見本市CESで、磁気熱量ヒートポンプで冷やすワインクーラーの試作機を公開しました。BASFがマンガン・鉄系の磁気熱量材料を提供し、Astronauticsがヒートポンプを開発し、ハイアールが試作機への組み込みを主導しました。発表文には、ハイアールがこの技術を今後数年以内に市場に投入する計画だと書かれています。

MAGNOTHERM(ドイツ)

ドイツ・ダルムシュタットのMAGNOTHERMは、La-Fe-Si系の合金と永久磁石を使う磁気冷却機を製品として掲載しています。公式サイト(2026年10月7日時点)に載っているのは次の3つです。

製品名冷却能力公式サイトの説明
POLARIS100W缶飲料クーラー。同社の最初の製品で、「世界で初めて市販された磁気冷却機」と説明。購入・レンタルの問い合わせを受け付け
ECLIPSE1kW永久磁石を使う店舗向けの冷却ユニット。REWEグループの上開きのケース(トップローダー)への組み込みなどを事例として掲載
STELLAR125kW以上超伝導磁石を使う大容量機。データセンター、空調、産業用を対象に開発中

POLARISとECLIPSEの仕様には「見込みの値で、技術開発に応じて変わる」という注記があります。同社は、水素の液化に向けた装置も「Hylical」というプロジェクトで開発中だとしています。

Camfridge(英国)

Camfridgeは、ケンブリッジ大学から独立した企業で、鉄系の磁気熱量材料を使う冷却システムを業務用の冷蔵向けに開発しています。2025年12月時点の公式サイトは、2005年の設立以来、磁気冷却技術の開発に1,500万ポンド以上を投じてきたと説明していました。2026年10月7日時点の公式サイトは、蒸気圧縮式を基準に測った機器の成績係数(COP)が27%向上したと掲載しています。測定の条件は載っていません。提携や実証の問い合わせ先は載っていますが、製品の型番や販売の案内は載っていません。

NIMSの水素液化プロジェクト(日本)

物質・材料研究機構(NIMS)は、JSTの未来社会創造事業の研究開発課題「磁気冷凍技術による革新的水素液化システムの開発」で、磁気冷凍を水素の液化に使う研究を進めてきました。水素は約20K(マイナス253℃)で液体になります。2022年4月の発表によると、従来の気体式冷凍機の液化効率は最大25%程度で、磁気冷凍では50%以上が理論的に可能です。NIMS、金沢大学、大島商船高等専門学校のチームは同月、超伝導磁石を使う能動的蓄冷式磁気冷凍で、世界で初めて水素の液化に成功したと発表しました。

材料の面では、2022年4月にNIMS・東北大学・高輝度光科学研究センターが、水素の液化に必要な77〜20Kの全温度範囲に対応する合金(Er(Ho)Co2系)を開発したと発表しています。2025年12月には、NIMSなどのチームが、磁場のオン・オフを繰り返しても冷却能力が落ちにくい磁気冷凍材料の設計手法を発表しました。製品より研究が先に進んでいる技術の例は、量子技術を活用したエネルギー貯蔵の記事でも取り上げています。

省エネ効果の根拠——理論値と実測値を分けて読む

発表元(年)公表された値値の種類
Astronautics(1998年)従来の蒸気サイクルの効率は約25%。自社の装置は50〜60%を見込む開発者の見込み
中部電力(2006年)冷凍能力540W・成績係数1.8(磁場1.1テスラ)試作機の実測値
オークリッジ国立研究所(2014年)理論上、消費エネルギーを25%減らせる理論値
米国エネルギー省(2014年掲載)蒸気圧縮式に対して20〜30%の省エネの可能性可能性の見積もり
BASF・ハイアール・Astronautics(2015年)理論研究では蒸気圧縮式より最大35%高効率理論値
NIMS・JST(2022年)水素の液化効率は気体式が最大25%程度、磁気冷凍は50%以上が理論的に可能理論値(極低温)
Camfridge(2026年10月時点の公式サイト)蒸気圧縮式を基準に測った機器の成績係数が27%向上開発中の機器の測定値(条件の記載なし)

磁気冷凍の省エネ効果として公表されている数字を、出どころと値の種類で分けると上の表になります。

「20〜35%」は理論値・見込み値

「蒸気圧縮式より20〜30%省エネ」「最大35%高効率」という数字は、米国エネルギー省とBASFの発表にありますが、どちらも理論や可能性として示された値です。販売されている機器を同じ条件で測った比較ではありません。表の値は対象(家庭用冷蔵庫、冷凍機全般、水素の液化)も測り方も違うため、並べて差を出すことはできません。

実測値として公表されているもの

試作機の実測値として公表されている例が、中部電力の2006年の発表です。成績係数は冷凍能力を消費電力で割った値で、1.8は、消費電力1に対して1.8の熱を運べることを意味します。2003年度の装置の0.1からは大きく伸びていますが、この発表には同じ条件の蒸気圧縮式との比較は載っていません。MAGNOTHERMの公式サイトの製品ページも、消費電力や成績係数の数値は載せていません(2026年10月7日時点)。Camfridgeは、蒸気圧縮式を基準に測った機器の成績係数が27%向上したと公式サイトに掲載していますが、機器は開発中で、測定の条件は載っていません。販売中の機器でどれだけ電気が減るかを、公表された数値から計算することはできません。

実用化に向けた技術的課題

試作から製品までに時間がかかっている理由は、各社・各機関の発表の中に書かれています。磁場、熱のやりとり、コストと材料の3つに分けて整理します。

磁場強度の確保

磁気熱量効果の大きさは、材料と磁場の強さで決まります。中部電力の2006年の試作機は、永久磁石の形と配置を工夫して1.1テスラの磁場変化を得ました。NIMSとJSTの発表は、極低温の磁気冷凍では磁気モーメントの向きをそろえるために超伝導磁石による強い磁場が必要で、1日あたり100キログラム以上の中・大型の液化プラントへの応用が想定されると説明しています。MAGNOTHERMも、大容量機のSTELLARでは超伝導磁石を使う計画を示し、5テスラでの冷却の出力密度は1テスラのときの100倍を超えると説明しています。超伝導磁石は極低温に冷やして使うため、常温超伝導の実現は、強い磁場を手軽に得るという点でこの分野とも関係があります。

熱交換と損失の低減

磁性体の温度変化は数K程度(CALORIVACの仕様では1.5テスラで2〜4K)のため、液体との熱のやりとりをどれだけ速く、損失なく行えるかが性能を左右します。中部電力は、熱交換器の構造を見直して液体の流速を従来の3倍以上に高め、磁石の回転で外筒に生じる渦電流の発熱を抑え、ポンプとモータの動力を減らすことで、冷凍能力と成績係数を引き上げたと説明しています。材料の側にも課題があります。NIMSなどの2025年12月の発表は、磁場のオン・オフを繰り返すと材料の内部でエネルギーの損失が生じ、損失を抑える設計にすると温度変化が小さくなるという両立の難しさを挙げ、原子の結びつき方を調整してこれを解く手法を示しました。

コストと材料の供給

コストについて公表されているのは、各社の説明です。オークリッジ国立研究所は2014年に、磁気熱量冷蔵庫は現在の冷蔵技術より少し高くなる見込みだが、電気代の削減で長期的には利用者の負担が減ると説明しました。Camfridgeは、自社の技術は従来の蒸気圧縮式とコスト面で競争できるとしています。材料では、希土類の鉱山生産の約69%を中国が占めるという供給の偏りがあります。MAGNOTHERMとBASFは、ガドリニウムではなく、豊富な元素や原料からなる材料を使うと説明しています。MAGNOTHERMが使うランタンも希土類元素の1つです。

発表した時期 発表元 対象 示された見通し
1998年2月Astronautics(アイオワ州立大学の広報)業務用・産業用の冷凍研究室から市場に出るまで5〜10年。家庭用はさらに先
2006年11月中部電力エアコン・冷蔵庫早期の実用化をめざす(年は示されていない)
2014年5月オークリッジ国立研究所家庭用冷蔵庫GEが2020年までの商品化を意図
2015年1月BASF・ハイアール・Astronauticsワインクーラーハイアールが今後数年以内に市場投入を計画

商用化の現在地——いつ「普通の技術」になるか

上の表は、これまでに公表された商用化の見通しを、発表した時期と一緒に並べたものです。1998年には業務用で「5〜10年」、2014年には家庭用冷蔵庫で「2020年まで」、2015年にはワインクーラーで「今後数年以内」という見通しが示されました。2026年10月時点の状況を、段階ごとに分けます。

販売されているもの——業務用の小型機

販売されているのは、MAGNOTHERMの缶飲料クーラーPOLARIS(冷却能力100W)です。公式サイトは購入とレンタルの両方を案内しており、店頭やイベントで使う業務用の機器です。同社は、磁気冷却を論文から実験室を経て、POLARISとECLIPSEで市場に持ち込んだと説明しています。

開発中と発表されているもの

1kW級のECLIPSEは、小売企業のショーケースへの組み込みなどが事例として掲載されている段階で、仕様は見込みの値です。125kW以上のSTELLARは開発中です。家庭用の冷蔵庫・エアコンは、MAGNOTHERMとCamfridgeの公式サイトに販売中の製品が載っていません(2026年10月7日時点)。2015年に試作機を公開したハイアールの日本向け公式サイトの冷蔵庫の一覧と、商品化の意向が伝えられたGEの家電ブランド(GE Appliances)の米国向け公式サイトの冷蔵庫の案内にも、磁気冷凍を使う製品は載っていません(2026年10月7日時点)。家庭用がいつ出るかを示す、根拠のある日付は公表されていません。

市場調査会社の予測

調査会社Mordor Intelligenceは、磁気冷凍の世界市場を2025年に7.4億ドル、2031年に25.8億ドルと見込み、2026〜2031年の年平均成長率を23.2%としています(2026年10月7日時点の同社の公表値)。同社は最大の市場を欧州、最も成長が速い市場をアジア太平洋としています。これは調査会社1社の予測で、実績ではありません。市場の定義は調査会社ごとに違うため、他社の数字とは比べられません。

注目される応用分野——冷蔵庫からデータセンターまで

企業と研究機関が対象として挙げている用途は、家庭用の冷蔵庫に限りません。発表にもとづいて3つ取り上げます。

データセンター・大容量の冷却

MAGNOTHERMは、開発中の大容量機STELLARの対象として、データセンター、空調、産業用、小売を挙げています。1台125kW以上のモジュールを組み合わせる構想で、20フィートコンテナの設置面積に2台・250kW以上を収める図を示しています。計算機の消費電力は、バイオコンピュータのような新しい計算方式の研究でも論点になっており、冷却の側から電力を減らす手段の1つとして開発が進んでいます。

店舗の飲料・食品の冷蔵

製品化が最も進んでいるのがこの用途です。POLARISは缶飲料用、ECLIPSEは店舗向けの冷却ユニットで、上開きのケースや2ドアの飲料クーラーへの組み込みが事例として掲載されています。1998年の時点でAstronauticsの研究者が最初の利用先として挙げていたのも、冷凍にかかる電気代が大きいスーパーマーケットチェーンや食品倉庫でした。

水素の液化

水素を大量に貯蔵・輸送するには、気体より液体のほうが有利です。NIMSとJSTの発表によると、液化の価格は水素の製造価格の3分の1を占め、液化効率の向上が課題になっています。磁気冷凍は圧縮機を使わないため、液化効率を理論上50%以上に高められる技術として研究されており、NIMSのチームは2022年に能動的蓄冷式磁気冷凍による水素の液化に成功しました。液体水素を運ぶトレーラーなどの小規模な用途に向けては、永久磁石を使う小型の磁気冷凍の開発も進められています。

あわせて読みたい有機ELの消費電力は?次世代ディスプレイの省エネ性能 あわせて読みたいLED照明の効率限界は?発光効率200lm/Wの実現可能性

よくある質問

Q. 磁気冷凍は今すぐ購入できる製品なのか?

業務用の小型機は購入できます。ドイツのMAGNOTHERMが、缶飲料クーラーPOLARIS(冷却能力100W)の購入・レンタルの問い合わせを公式サイトで受け付けています(2026年10月時点)。家庭用の冷蔵庫やエアコンは、販売中の製品が各社の公式サイトに載っていません(2026年10月時点)。

Q. 磁気冷凍はどのくらい省エネになるのか?

公表されている数字は、蒸気圧縮式に対して「20〜30%の省エネの可能性」(米国エネルギー省)、「理論上、最大35%高効率」(BASFの2015年の発表)です。どちらも理論や可能性として示された値です。試作機の実測値では、中部電力が2006年に成績係数1.8を発表しています。Camfridgeは、開発中の機器の成績係数が蒸気圧縮式を基準に27%向上したと公式サイトに掲載しています(測定の条件は載っていません)。販売中の機器で電気がどれだけ減るかを示す実測の比較は、MAGNOTHERMの公式サイトに載っていません(2026年10月7日時点)。

Q. 磁気冷凍に使う磁石は安全か?

室温で使う磁気冷凍機には永久磁石が使われています。中部電力の2006年の試作機はネオジム系の永久磁石で1.1テスラ、MAGNOTHERMの室温用の製品も永久磁石です。MAGNOTHERMは、冷媒ガスを使わないため毒性や爆発性が無く、1バール未満の低い圧力で動くと説明しています。磁石が人体や周囲の機器に与える影響の数値は、同社の公式サイトには載っていません。導入するときは、各製品の取扱説明書の注意事項を確認してください。

Q. フロン規制がなくても磁気冷凍は普及するのか?

開発する企業と調査会社は、フロン規制を普及の理由に挙げており、規制が無い場合の見通しは示していません。VacuumschmelzeはHFCの段階的削減を背景に磁気冷凍を代替技術として紹介し、Mordor Intelligenceもフッ素系ガスを使わずに冷やせる点を市場成長の理由にしています。キガリ改正により、先進国のHFCの上限は2036年以降、基準値の15%まで下がります。

Q. 日本企業は磁気冷凍で競争力を持てるか?

日本の実績として公表されているのは、中部電力が2006年に当時の世界最高性能と説明した室温磁気冷凍システムを発表したこと、NIMSなどのチームが2022年に能動的蓄冷式磁気冷凍による水素の液化に世界で初めて成功したと発表したこと、2025年にも材料設計の成果が出ていることです。製品を販売しているのはドイツのMAGNOTHERMです。研究の成果が製品より先に出ている技術としては、塩分濃度差発電の記事もあります。

磁気冷凍技術の最新動向を追うための情報源

磁気冷凍は、発表の時期と中身を分けて追う必要がある技術です。次の情報源で一次情報を確認できます。

  • International Journal of Refrigeration——国際冷凍協会(IIR)が刊行物として案内している学術誌。冷凍空調分野の研究論文が掲載されます
  • NIMS(物質・材料研究機構)・JSTのプレスリリース——水素液化に向けた磁気冷凍の装置と材料の成果が、共同発表として公開されています
  • 企業の公式サイト(MAGNOTHERM、Vacuumschmelzeなど)——製品の冷却能力、対象の用途、販売の有無を確認できます
  • モントリオール議定書の条文(UNEPオゾン事務局)——HFCの削減スケジュール(第2J条)を原文で確認できます
  • EV充電インフラの最新動向——新しい方式が規格と機器の形で普及していく過程を、先に進んだ分野の例として確認できます

磁気冷凍は、業務用の小型機の販売までは進みました。家庭用の冷蔵庫・エアコンは、過去に何度か示された見通しの時期を過ぎており、次の時期は公表されていません。今後は、1kW級の店舗向けの機器が実際に設置されるか、消費電力の実測値が公表されるかが、進み具合を測る目安になります。

X でシェアFacebook でシェアLINE でシェア
この記事の執筆: Japan Energy Times 編集部
電気代・再生可能エネルギー・省エネの一次情報(公式統計・料金表・制度資料)を確認して記事を制作しています。
カテゴリ:省エネ・節約

関連記事