革新的なパワー半導体基板技術 ― 住友金属鉱山のSICOXS事業

資料提供:住友金属鉱山株式会社

次世代のパワー半導体技術に不可欠な素材として注目を集めているSiC(シリコンカーバイド)。その製造技術の最前線に立つのが、住友金属鉱山株式会社が展開するSICOXS(サイコックス)事業です。本記事では、その歴史、技術、製品、今後の展望に至るまでを詳しく解説します。

SICOXS事業の誕生と発展の歴史

SICOXS事業は、もともと2012年に設立された株式会社サイコックスに端を発します。加賀電子株式会社の出資を受けて発足したこの企業は、SiC貼り合わせ基板という革新的な分野にいち早く着目。2014年には、貼り合わせ基板の基本特許を出願し、国際学会でもその技術力を発表しています。

2017年には、住友金属鉱山が同社株式の過半を取得。2025年には完全吸収合併を果たし、現在は住友金属鉱山の「次世代のコア事業」として位置付けられています。この一連の動きは、パワーデバイス市場の成長を見据えた戦略的な意思決定であり、同社の未来に向けた大きな投資と言えるでしょう。

事業拠点と生産体制

SICOXS事業の主要な拠点は、東京都青梅市にある開発グループ、そして鹿児島県内の製造施設(湧水工場・大口工場)です。6インチおよび8インチ基板の製造は、それぞれフェニテックセミコンダクター鹿児島工場と大口電子株式会社にて行われています。

これらの拠点は、基板製造の各工程において高度な技術が活用されており、製品の信頼性と性能を担保する重要な要素です。特に2024年には、8インチ量産ラインの構築が発表され、今後さらなる生産能力の拡充が見込まれています。

主力製品「SiCkrest」の特長

同事業の中心にあるのが、SiCkrest(サイクレスト)という製品です。これは、低抵抗多結晶SiCを支持基板とし、その上に高品質な単結晶SiCの薄膜を貼り合わせたもの。単結晶層の膜厚はわずか0.7μm以下と超薄膜でありながら、機械的強度と電気的性能を両立する構造になっています。

特に注目すべきは、単結晶の性能を維持したまま、基板全体の低抵抗化と高強度化を実現している点。これにより、電力効率や耐久性が求められるパワーデバイス用途において、優れた性能を発揮します。

「サイクレスト」はサイコックス独自の技術商標として日本国内ではすでに登録されており、現在は海外での商標登録も申請中です。

独自技術「表面活性化接合法(SAB)」

SiCkrestの製造には、表面活性化接合法(SAB)というサイコックス独自の技術が用いられています。この方式は、真空中で活性化処理された表面同士を接合することで、原子レベルの強固な接合界面を形成するものです。これは、特許第6387375号としても登録されています。

また、同技術では単結晶SiCの再利用が可能であり、目標として100回以上の再利用が掲げられています。このリユース性は、材料コストの削減や環境負荷の低減といった点でも非常に大きなメリットを持ちます。

SiCkrestがもたらす顧客メリット

SiCkrestの導入によって得られる利点は多岐にわたります。

  • 低抵抗・高強度による性能向上
  • バイポーラ劣化の抑制
  • エピバッファ層コストの削減
  • オーミックコンタクトにおける熱処理工程の削減
  • 省電力化と高信頼性の両立
  • チップ面積の縮小と歩留まりの改善
  • 希少な単結晶資源の有効活用

特にパワーデバイスメーカーにとっては、工程短縮とコストダウンという両面の効果が期待されるため、今後の量産展開において広範な採用が予想されます。

今後の展望と市場へのインパクト

2024年9月のプレスリリースによれば、大口工場において8インチ(200mm)貼り合わせSiC基板の量産ライン構築が正式に決定されており、2025年度から本格供給が開始される予定です。これは世界的にも例の少ない大口径基板の量産であり、住友金属鉱山がグローバル市場において競争力を高める上で大きな一歩となります。

また、ライセンス供与や多結晶SiC支持基板の供給など、派生的なビジネス機会も拡大しています。これにより、SICOXS事業は単なる材料提供にとどまらず、次世代のパワー半導体のエコシステムを牽引する存在へと進化していくことが期待されます。

結びに

SICOXS事業は、技術革新・製造能力・環境配慮のいずれにも優れた取り組みであり、まさに未来のエネルギー社会を支える基盤技術といえるでしょう。住友金属鉱山の持つ資源力・技術力・研究開発体制が融合し、日本発の世界標準となることを目指して、今後もさらなる発展が期待されます。

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