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量子もつれ通信は光速を超える?瞬間情報伝達の物理学的可能性

更新: 2026/03/29
未来技術
量子もつれ通信は光速を超える?瞬間情報伝達の物理学的可能性

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「量子もつれで超光速通信」は物理学的に誤りだ

量子通信(QKD・量子インターネット)のメリット

  • 中国の墨子号衛星は1,200km離れた地点間で量子鍵配送(QKD)に成功し、物理法則で盗聴不可能な通信を実証した
  • 東芝は254kmの光ファイバーでQKD伝送に成功しており、2030年代の量子インターネット実現が視野に入っている
  • QKDは現行の公開鍵暗号を将来の量子コンピュータで解読される脅威への根本的な対策になりうる
  • 量子中継器の開発が進めば、衛星・光ファイバーを組み合わせた世界規模の量子通信網が構築できる

技術的・原理的な限界

  • 量子もつれで「情報を光速超で送る」ことはノーコミュニケーション定理により物理的に不可能(測定結果がランダムで制御できない)
  • 量子中継器はまだ研究段階で、長距離QKDの実用化には量子メモリの性能向上と大幅なコスト削減が必要
  • 光ファイバー伝送では光子の損失が距離に比例して増大し、現状では数百kmが実用上の限界
  • 量子インターネットは既存インターネットとは別インフラが必要で、全世界への普及には莫大な投資と数十年の期間が必要
この記事のポイント
  • 量子もつれで「情報を光速超で送る」ことはノーコミュニケーション定理により物理的に不可能だ
  • 中国の墨子号衛星は1,200km離れた地点間で量子鍵配送(QKD)に成功し、量子暗号の実用化が現実になった
  • 東芝は254kmの光ファイバーでQKD伝送に成功しており、2030年代の量子インターネット実現が視野に入っている

「量子もつれで超光速通信ができる」——この主張は物理学的に誤りです。量子もつれは確かに2つの粒子間に瞬時の相関を生み出す現象だが、それを使って情報を光速を超えて伝達することは、物理法則によって原理的に禁じられています。「ノーコミュニケーション定理」と呼ばれるこの定理は、量子もつれの測定結果がランダムであるため、受信側が送信側の意図した情報を読み取ることが不可能であることを数学的に証明しています。

にもかかわらず「量子もつれ=超光速通信」という誤解はインターネット上で広く流布しています。この誤解を正した上で、量子もつれが実際に何を可能にするのか——量子鍵配送(QKD)や量子インターネットの真の技術的価値を整理することがこの記事の目的です。

量子通信の真実を理解する3ステップ
  1. 1
    ノーコミュニケーション定理を理解する

    量子もつれが「超光速通信に使えない」理由を数式なしで理解するには、測定結果がランダムである点と受信側が送信側の意図を読めない点を押さえる。Wikipediaのノーコミュニケーション定理の項目が入口として適切だ。

  2. 2
    QKDと量子インターネットの違いを整理する

    量子鍵配送(QKD)は「暗号鍵を盗聴不可能な方法で共有する」技術であり、情報の高速転送ではない。量子インターネットが実現した際に何が変わり、何が変わらないかを整理する。

  3. 3
    エネルギーインフラへの量子通信応用を調べる

    電力グリッドの制御通信にQKDを導入する実証実験が日本・欧州・中国で進んでいる。量子暗号で保護された送電網制御がサイバー攻撃耐性をどう高めるかを確認する。

ノーコミュニケーション定理——なぜ超光速通信は不可能か

量子もつれの測定結果はランダムだ

量子もつれ状態にある2つの粒子(光子やelectronなど)は、一方を測定すると他方の状態が瞬時に確定します。距離に関係なく、たとえ数光年離れていても瞬時です。しかしここに決定的な制約があります。測定結果自体が完全にランダムなのです。

アリスが粒子Aを測定して「スピンが上」と得たとします。ボブの粒子Bは瞬時に「スピンが下」に確定します。しかしアリスが「上」を得るか「下」を得るかは完全に確率的であり、アリス自身にも制御できません。つまりアリスがボブに特定の情報(例えば「1」や「0」)を意図的に送ることは不可能です。ランダムな測定結果から意味のある情報を抽出するには、古典的な通信チャネル(光ファイバー、電波など)で測定結果を照合する必要があります。この照合通信は光速を超えることができないため、最終的な情報伝達速度は光速以下に制約されます。この制約はアインシュタインの特殊相対性理論の因果律と完全に整合しており、量子力学のコペンハーゲン解釈・多世界解釈・ドブロイ・ボーム解釈など、どの解釈を採用しても「ノーコミュニケーション定理」が成立することは数学的に証明されています。量子もつれの「瞬時の相関」は実在しますが、それを使って情報を送ることは原理的に不可能です。

アインシュタインの「不気味な遠隔作用」

アインシュタインは量子もつれを「不気味な遠隔作用(spooky action at a distance)」と呼び、量子力学の不完全性を示すものだと主張しました。1935年のEPRパラドックスとして知られるこの議論は、量子力学の根幹に関わる問いでした。その後1964年にジョン・ベルが「ベルの不等式」を提案し、量子もつれの相関が古典的な隠れた変数では説明できないことが理論的に示されました。2022年にはアラン・アスペ、ジョン・クラウザー、アントン・ツァイリンガーの3名がベルの不等式の実験的検証によりノーベル物理学賞を受賞しています。量子もつれは確かに「不気味」な現象です。しかし相関があることと情報を伝達できることは別の問題です。この区別を正確に理解することが、量子通信技術の本当の価値を評価する前提条件となります。

リーブ・ロビンソン限界——情報伝達速度の物理的上限

理研2024年論文の意義

理化学研究所(理研)の研究チームは2024年、量子系における情報伝達速度の上限に関する新たな理論的成果を発表しました。「リーブ・ロビンソン限界(Lieb-Robinson bound)」は、量子多体系において情報や相関が伝播する速度に上限が存在することを示す定理です。量子もつれは瞬時に相関を生み出すが、観測可能な情報(物理的に意味のある信号)の伝達速度には有限の限界があります。

理研の論文(2024年3月29日公開)は、より複雑な量子系(長距離相互作用を含むシステム)におけるリーブ・ロビンソン限界の精密化に貢献しました。具体的には、従来の短距離相互作用系で成立していた速度上限の証明を、長距離相互作用を持つ系(量子シミュレーターや量子コンピュータの実際の構造に近い系)にまで拡張しました。この成果は「量子もつれで超光速通信」が原理的に不可能であることを、より広いクラスの量子系に対して数学的に証明した重要な前進です。現実の量子ハードウェアに近い条件でも情報伝達速度に上限があることが示されたため、量子インターネットの設計においても理論的裏付けが強化されました。

量子鍵配送(QKD)——量子もつれの真の応用先

比較項目 量子通信(QKD) 古典通信(光ファイバー/無線)
情報転送速度 光速以下(古典通信が必須) 光速の約67%(光ファイバー中)
超光速通信の可否 不可能(ノーコミュニケーション定理) 不可能(特殊相対性理論の制約)
盗聴検知 物理法則レベルで検知可能 検知が困難・傍受されても気づきにくい
暗号の安全性の根拠 量子力学(情報理論的安全性) 計算量的安全性(十分な処理能力があれば解読可能)
量子コンピュータへの耐性 原理的に安全 RSA・ECCは将来的に破られる可能性あり
必要な専用ハードウェア 必要(光子源・量子検出器・冷却装置) 不要(既存インフラ利用可能)
現在の最長実用距離 光ファイバー254km(東芝実証)
衛星経由1,200km(墨子号)
数万km(中継器で無限に延長可能)
実用化状況 都市間QKDは一部商用運用中 グローバルで全面商用展開済み

※QKDの安全性は実装レベルの脆弱性(サイドチャネル攻撃等)を除く理論的な安全性。距離は2024年時点の実証データ。

「盗聴不可能」な暗号鍵の共有

量子もつれが実際に威力を発揮するのは、超光速通信ではなく暗号通信の分野です。量子鍵配送(QKD: Quantum Key Distribution)は、量子力学の原理を利用して暗号鍵を2者間で安全に共有する技術です。盗聴者が量子状態を測定すると、その状態が不可逆的に変化する(量子の不確定性原理)。この性質を利用して、盗聴の有無を確実に検知できるのがQKDの強みです。

中国「墨子号」衛星——1,200kmのQKD実証

中国は2017年、世界初の量子通信衛星「墨子号(Micius)」を使い、1,200km離れた地上局間でのQKD実験に成功しました。中国科学技術大学の潘建偉(パン・ジエンウェイ)教授率いるチームの成果です。この実験は衛星から2つの地上局にもつれた光子ペアを送信し、安全な暗号鍵を宇宙経由で共有するものでした。墨子号の成功により、中国は量子通信の分野で世界をリードする地位を確立しました。潘教授のチームはその後も2020年に「墨子号」を使って1,120kmの距離で量子もつれの配布に成功し、将来の衛星ベース量子インターネットの基盤技術を着実に積み上げています。

東芝のQKD——254km光ファイバー伝送

東芝は2021年、254kmの光ファイバーを通じたQKD実験に成功しました。長距離の光ファイバーでは光子が減衰するため、距離が延びるほど暗号鍵の生成レートが低下します。東芝の技術は「デュアルバンド安定化」と呼ばれる手法で光子の損失を最小化し、商用ネットワークでの実用化に向けた重要なステップとなりました。日本の量子通信技術は光ファイバーを使った長距離QKDの分野で世界最高水準にあり、商用化への道筋が最も明確に見えている領域です。

量子インターネット——次世代通信インフラの構想

量子インターネットとは何か

量子インターネットは、量子もつれを利用して量子情報を遠隔地間で共有するネットワーク構想です。古典的なインターネットが0と1の「ビット」を伝送するのに対し、量子インターネットは重ね合わせ状態の「量子ビット(キュービット)」を伝送します。古典ビットが「0か1のどちらか」であるのに対し、キュービットは「0と1の重ね合わせ」を保持できるため、根本的に異なる情報処理が可能になります。量子コンピュータ同士の接続、分散型量子計算、究極的なセキュリティを持つ通信ネットワークなどの応用が期待されています。

量子もつれの応用は通信だけにとどまりません。量子レーダーによるステルス機探知の研究も軍事分野で進んでいます。

量子インターネット市場——2030年に17億ドル予測

量子インターネット関連市場は2030年に17億ドル(約2,550億円)規模に達するとの予測があります。QKDシステム、量子中継器(量子リピーター)、量子メモリなどの要素技術が市場を構成します。現時点では量子中継器の実用化が最大のボトルネックです。光ファイバー中の光子は距離とともに減衰するが、古典通信のように信号を増幅(コピー)することは量子の「コピー不可能定理(ノークローニング定理)」により不可能です。量子中継器は量子もつれの「スワッピング」と呼ばれる手法で、もつれの距離を延長する仕組みだが、まだTRL 2〜3の段階にあります。

エネルギーインフラへのQKD応用——電力系統のサイバーセキュリティ

スマートグリッドの脆弱性

電力系統のデジタル化(スマートグリッド)が進むにつれ、発電所、変電所、配電網がサイバー攻撃の標的となるリスクが増大しています。2015年のウクライナ電力網へのサイバー攻撃では、23万人が最大6時間にわたる停電に見舞われました。太陽光発電の分散型電源が増えるほど、制御通信のセキュリティ確保は重要度を増す。

QKDによる電力制御通信の保護

QKDを電力系統の制御通信に適用すれば、盗聴やデータ改ざんを物理法則レベルで防止できます。Nature Scientific Reports(2022年)では、変電所間の既存光ファイバーを使ったQKD実証実験の成果が報告されています。架空ケーブル・地中ケーブルの両方で成功しており、新たなインフラ投資なしにQKDを電力インフラへ導入できる可能性を示しています。中国は2025年までに北京〜上海間2,000kmの量子通信バックボーンネットワークを構築し、政府機関や金融機関の通信保護に運用を開始しました。この技術がエネルギーインフラに拡大されれば、スマートグリッドのサイバーセキュリティが根本的に強化されます。エネファームのような分散型エネルギー機器も、IoT接続が増えるほどセキュアな通信基盤の必要性が高まる。

量子通信のエネルギー需要と課題

量子光源と検出器の消費電力

QKDシステムの構成要素である単一光子源や量子検出器(SNSPD: 超伝導ナノワイヤ単一光子検出器)は極低温での動作が必要です。冷却には数kWの電力を消費します。ただし通信される情報量あたりの消費電力は、将来的にはデバイスの小型化と集積化によって大幅に低減されると見込まれています。常温超伝導が実現すれば冷却コストが劇的に削減され、QKDの経済性が飛躍的に向上します。

量子中継器のエネルギー課題

現在の光ファイバー通信は1芯あたり約1Wのエネルギー伝送が限界に近づいており、データ通信量の急増に伴うエネルギー密度の壁が顕在化しています(NICT資料)。量子通信はこの物理的限界を異なるアーキテクチャで回避できる可能性を持っています。

長距離量子通信には量子中継器が不可欠だが、各中継ノードで量子メモリの維持と量子もつれスワッピングの制御に電力が必要になります。大陸間の量子通信ネットワークを構築する場合、数百〜数千の中継ノードが必要とされ、その総消費電力は無視できない規模になる可能性があります。液体空気蓄エネルギーのような大規模蓄電技術は、こうした量子通信インフラの安定的な電力供給を支える技術として将来的に重要性を増すでしょう。

世界の量子通信開発競争

研究機関・プロジェクト 実施年 記録距離・規模 通信方式 主な成果・意義
中国 墨子号(Micius)衛星
中国科学技術大学・潘建偉チーム
2017年 1,200km
(衛星〜地上2拠点)
衛星QKD
(もつれ光子配送)
世界初の衛星ベースQKD成功。宇宙経由の量子暗号鍵共有を実証
中国 墨子号
潘建偉チーム
2020年 1,120km
(衛星〜地上間)
量子もつれ配布 宇宙空間での量子もつれ分配を実証。衛星量子インターネットの基盤技術確立
東芝ケンブリッジ研究所 2021年 254km
(光ファイバー)
光ファイバーQKD
(デュアルバンド安定化)
光ファイバー長距離QKDの世界記録達成。商用ネットワーク実装への道を開く
中国 北京〜上海
量子通信バックボーン
2017〜2025年 2,000km
(地上ネットワーク)
光ファイバーQKD
(中継ノード使用)
政府・金融機関向け世界最長の量子通信ネットワーク。衛星リンクと統合済み
NICT(情報通信研究機構)
東京QKDネットワーク
2010年代〜継続 都市内複数拠点間 光ファイバーQKD
(多拠点ネットワーク)
都市規模QKDネットワークの長期実証。日本の量子通信基盤構築に貢献
EU EuroQCI プロジェクト 2022年〜 EU全域
(計画段階)
光ファイバー+衛星QKD EU全加盟国を結ぶ量子通信インフラ構築。2027年までの段階的展開を目標

※TRL(技術成熟度レベル)は研究機関発表時点の情報をもとに整理。商用展開状況は2025年時点。

中国——衛星と地上ネットワークの統合

中国は墨子号の成功を皮切りに、衛星ベースと光ファイバーベースの量子通信ネットワークを統合する「量子コミュニケーションスーパーハイウェイ」構想を推進しています。北京〜上海間の地上QKDネットワークは2017年に運用を開始し、衛星リンクと統合することで大陸間の量子通信の実現を目指しています。

欧州と日本の取り組み

欧州はEuroQCI(European Quantum Communication Infrastructure)プロジェクトのもと、EU全域を結ぶ量子通信ネットワークの構築を進めています。日本ではNICT(情報通信研究機構)が中心となり、東京QKDネットワークの実証実験を2010年代から継続しています。東芝のQKD技術は英国のBTグループと共同で商用トライアルを実施するなど、国際的な展開を進めています。量子バッテリー研究とともに、量子技術全般への戦略的投資が各国で加速中です。

ポスト量子暗号との関係——2つのアプローチ

QKD vs ポスト量子暗号(PQC)

量子コンピュータの脅威に対する暗号セキュリティ対策には、QKDとPQC(ポスト量子暗号)の2つのアプローチが存在します。PQCは量子コンピュータでも解読困難な数学的アルゴリズムに基づく暗号方式であり、既存のネットワーク上でソフトウェア的に導入できる利点があります。NISTは2024年に最初のPQC標準アルゴリズムを策定しました。

QKDは物理法則に基づく「情報理論的安全性」を持つが、専用のハードウェア(光子源、量子検出器、光ファイバーまたは衛星リンク)が必要です。PQCはソフトウェア実装が可能で導入コストが低いです。両者は競合ではなく相互補完的であり、高セキュリティが求められるエネルギーインフラでは両方を組み合わせた多層防御が推奨されています。

量子コンピュータが現行暗号を破る日

RSA暗号やECC(楕円曲線暗号)は、十分な規模の量子コンピュータがあればショアのアルゴリズムで解読されます。この脅威は「Q-Day」と呼ばれ、2030年代後半から2040年代に到来すると多くの専門家が予測しています。「ハーベスト・ナウ、デクリプト・レイター」(今データを収集し、将来量子コンピュータで解読する)攻撃は既に懸念されており、国家機密レベルの通信では今すぐQKDやPQCへの移行を始める必要があります。

量子通信の最新研究を追うための情報源

学術論文と研究機関の発表

Nature、Science、Physical Review Lettersが量子通信分野の最重要ジャーナルです。arXivのquant-ph(量子物理学)カテゴリで最新のプレプリントが入手可能です。中国科学技術大学の潘建偉グループ、東芝ケンブリッジ研究所、NICTの公式発表が一次情報源として信頼性が高いです。

産業レポートと各国の政策文書

McKinseyやBCGの量子技術市場レポートが市場規模予測の参考になります。日本では内閣府の「量子技術・イノベーション戦略」、EUのQuantum Flagship、米国のNational Quantum Initiative Actが主要な政策文書です。量子通信の標準化動向はETSI(欧州電気通信標準化機構)のQKD ISG(Industry Specification Group)で追跡できます。

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よくある質問

量子もつれで超光速通信は本当にできないのか?

物理法則(ノーコミュニケーション定理)により不可能です。量子もつれは瞬時の相関を生むが、測定結果がランダムであるため情報を意図的に伝達する手段にはなりません。相関を確認するには古典的な通信(光速以下)が別途必要になります。この制約はアインシュタインの特殊相対性理論の因果律と完全に整合しており、量子力学のどの解釈を採用しても結論は変わりません。

量子鍵配送は本当に「解読不可能」なのか?

理論上は物理法則に基づく安全性が保証されています。盗聴者が量子状態を測定すると不可逆的に状態が変化するため、盗聴の存在を検知できます。ただし実装レベルでは検出器のサイドチャネル攻撃など、デバイスの脆弱性を突く攻撃手法が報告されています。理論的な安全性と実装の安全性は区別して考える必要があります。

量子インターネットはいつ実現するか?

限定的な量子ネットワーク(都市間QKD)は既に運用段階にあります。汎用的な量子インターネット(量子コンピュータ同士の接続、分散量子計算)の実現は2040年代以降と見られています。しかし汎用的な量子インターネットの実現には量子中継器の実用化が不可欠であり、これが最大のボトルネックとなっています。

量子通信はエネルギー分野にどう役立つか?

スマートグリッドの制御通信を量子暗号で保護することで、サイバー攻撃による大規模停電のリスクを根本的に低減できます。電力取引データの改ざん防止にも有効です。送電網、ガスパイプライン、原子力発電所など、重要エネルギーインフラのデジタル化が進むほど、量子暗号によるセキュリティ強化の重要性は増大します。古典暗号が量子コンピュータにより破られるリスク(量子脅威)への対策としても、QKDの導入は急務です。

日本の量子通信技術は世界的にどの水準か?

光ファイバーQKDの分野で東芝は世界最高水準にあります。NICTは量子ネットワークの実証実験で10年以上の実績を持つ。衛星QKDでは中国が先行しているが、日本もJAXAとの共同研究で衛星量子通信の実験を計画しています。基礎研究と光ファイバー技術では世界最高水準にあるが、衛星QKDの展開や大規模量子ネットワークの構築スピードでは中国に大きく後れを取っているのが現状です。政府の量子技術投資拡大と産業界の参入加速が課題です。

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カテゴリ:未来技術