東京の9月の積算日射量は、8月より27.1%少なくなります(気象庁の1991〜2020年平年値から算出)。太陽光発電の発電量が「先月より落ちた」と感じる場面の多くは、この日射量の季節変動だけで説明がつきます。故障や劣化を疑う前に必要なのは、その月に本来どれだけ発電するはずだったかという期待値です。気象庁が公開する月別の全天日射量から、5kWの設備の月別期待発電量を算出しました。期待値との差が20%を超えたときだけ、汚れ・影・機器故障の切り分けに進みます。切り分けにかかる費用も、経済産業省の実測データで示します。
発電量が落ちたときに疑うべき原因は5つです
住宅用の太陽光発電で発電量が下がる原因は、日射量の季節変動・パネル表面の汚れ・影・パワーコンディショナの異常・経年劣化の5つに絞り込めます。5つは低下の「出方」がそれぞれ違いますので、モニタの数字の動き方を見るだけで候補をかなり絞れます。
| 原因 | 起きやすい時期 | 低下の出方 | 自分で確認できるか |
|---|---|---|---|
| 日射量の季節変動 | 6月・9月・11月以降 | 月単位でなだらかに下がり、翌年の同じ月に戻る | できる |
| パネル表面の汚れ | 黄砂・花粉の時期、無降雨が続いたあと | 数週間かけてじわじわ下がり、まとまった雨で戻る | できる |
| 影(周辺環境の変化) | 樹木の成長後、隣家の建築後、冬(太陽高度が低い) | 毎日決まった時間帯だけ落ち込む | できる |
| パワーコンディショナの異常 | 時期を問わない | ある日から急にゼロか大幅減になる | 表示の確認まで |
| 経年劣化 | 設置から年数が経つほど | 年単位でしか判別できない | できない |
5つのうち日射量の季節変動と汚れの2つは、費用をかけずに自分で切り分けられます。業者への連絡が必要になるのは、この2つを除外できたあとです。
気象庁の日射量平年値から出す月別の期待発電量【独自計算】
その月の期待発電量は、気象庁が公表する全天日射量の平年値から計算できます。気象庁の東京の平年値には月ごとの全天日射量(MJ/㎡・日)が載っていますので、これに月の日数を掛けると月間の積算日射量になります。年間合計に対する各月の比率が、そのまま年間発電量の月別配分になります。
東京の月別配分と5kW設備の期待発電量
年間発電量5,000kWh(5kW設備)の家庭にこの配分を当てはめると、次の値になります。
| 月 | 全天日射量 (MJ/㎡・日) | 月間積算 (kWh/㎡) | 年間に占める割合 | 期待発電量 (5kW) | 1日平均 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1月 | 9.4 | 80.9 | 6.29% | 315kWh | 10.1kWh |
| 2月 | 11.5 | 89.4 | 6.95% | 348kWh | 12.4kWh |
| 3月 | 13.3 | 114.5 | 8.90% | 445kWh | 14.4kWh |
| 4月 | 16.1 | 134.2 | 10.43% | 521kWh | 17.4kWh |
| 5月 | 17.3 | 149.0 | 11.58% | 579kWh | 18.7kWh |
| 6月 | 14.8 | 123.3 | 9.58% | 479kWh | 16kWh |
| 7月 | 15.6 | 134.3 | 10.44% | 522kWh | 16.8kWh |
| 8月 | 15.8 | 136.1 | 10.57% | 529kWh | 17.1kWh |
| 9月 | 11.9 | 99.2 | 7.71% | 385kWh | 12.8kWh |
| 10月 | 9.8 | 84.4 | 6.56% | 328kWh | 10.6kWh |
| 11月 | 8.6 | 71.7 | 5.57% | 278kWh | 9.3kWh |
| 12月 | 8.1 | 69.8 | 5.42% | 271kWh | 8.7kWh |
全天日射量は気象庁「東京」の平年値(統計期間1991〜2020年)を使い、MJ/㎡を3.6で割ってkWh/㎡に換算しました。月間積算は日平均値×月の日数(2月は28日)です。年間発電量5,000kWhは既築5kW設備の想定値で、Japan Energy Times の太陽光記事で共通して使っている前提です。パネルの向き・傾斜角・設置地域が違えば絶対値は変わりますが、月別の配分比率は同じ地域なら共通して使えます。お住まいの地域の日射量はNEDOの日射量データベースで確認できます。
8月は5月より暗い月です
期待発電量が最も多い月は5月の579kWhで、8月の529kWhはそれより8.7%少なくなります。日照が最も強い印象のある真夏が年間のピークではない理由は、梅雨明け後も大気中の水蒸気が多く、積乱雲の発生で午後の日射が遮られる日が続くためです。パネルは表面温度が上がると出力が下がる性質も持ちますので、実際の8月の発電量はこの期待値をさらに下回ることがあります。お使いのモジュールの仕様書にある温度係数(%/℃)を見ると、夏場にどれだけ目減りするかを機種ごとに確認できます。
「落ちた」と判定してよい境目は期待値との差20%です
発電量の異常を疑う基準は、前月比でも前年同月比でもなく、その月の期待発電量との差です。差が20%以内なら天候の年変動の範囲に収まりますので、機器を疑う必要はありません。
前月比で見ると毎年3回は「異常」が出ます
月別配分表を前月比に直すと、平年どおりでも大きく下がる月が3回あります。
| 変化 | 前月比 | 理由 |
|---|---|---|
| 5月 → 6月 | -17.2% | 梅雨入りによる日照の減少 |
| 8月 → 9月 | -27.1% | 秋雨前線と太陽高度の低下 |
| 10月 → 11月 | -15.1% | 日の入りが早まり日照時間が短縮 |
いずれも設備には何の問題もない月です。8月から9月にかけての27.1%減は年間で最大の落差ですので、この時期に「発電量が急に落ちた」と感じる人が最も多くなります。
最も多い月と少ない月では2.14倍の差があります
同じ設備でも、12月の発電量は5月の46.8%まで落ちます。この幅が正常だと知らないまま冬にモニタを見ると、深刻な故障が起きたように見えます。
前年同月比を使うときの注意点
前年同月比は天候の年変動をそのまま拾いますので、単独では判定材料になりません。梅雨が長引いた年の6月と空梅雨だった年の6月では、同じ設備でも2割前後の差が出ます。前年同月比を使うなら、直近3か月の合計値どうしを比べると年変動の影響が薄まります。
- 期待発電量との差が20%以内なら、機器の点検は不要です。
- 差が20%を超えた月が1か月だけなら、その月の天候を確認してください。
- 差が20%を超えた月が3か月続いたら、次のセクションの切り分けに進んでください。
- ある日を境に発電量がゼロか半分になった場合は、月の集計を待たずにパワーコンディショナの表示を確認してください。
原因別の切り分け手順と点検費用の実測データ
切り分けは費用のかからない確認から順に行います。0円でできる確認だけで、5つの原因のうち3つまで除外できます。
費用をかけずにできる3つの確認
| 確認すること | 方法 | 費用 | 切り分けられる原因 |
|---|---|---|---|
| 時間帯別の発電カーブ | モニタで1日の発電推移を見る。特定の時間帯だけ谷ができていないか | 0円 | 影 |
| まとまった雨の前後の比較 | 10mm以上の雨が降った翌日の発電量が回復するか | 0円 | パネル表面の汚れ |
| パワーコンディショナの表示 | 本体の運転ランプとエラーコードを確認し、取扱説明書と照合する | 0円 | パワーコンディショナの異常 |
時間帯別のカーブに毎日同じ時刻の谷が現れる場合は、影が原因です。樹木の成長や隣家の建築で数年かけて条件が変わることもありますので、設置当初は問題がなくても発生します。対処の進め方は太陽光パネルが隣の木の影になったときの交渉術で扱っています。
パネルの汚れを目視で確かめようとして屋根に登る行為は、転落事故に直結します。パネル表面はガラスで濡れると滑りやすく、踏むと内部のセルが割れて発電量がさらに落ちます。目視が必要なら、地上から望遠で撮影するか、業者の点検に含めてください。
有償になるのは点検と機器交換からです
0円の確認で原因が絞れなかった場合、次は業者の点検になります。費用の実勢値は、経済産業省の調達価格等算定委員会が太陽光発電協会へのヒアリングをもとに公表しています。
| 項目 | 費用(5kW想定) | 頻度 |
|---|---|---|
| 定期点検 | 1回3.8万円(前年度4.1万円) | 3〜5年ごと |
| パワーコンディショナ交換 | 38.4万円(前年度42.3万円) | 20年で1回 |
出典は資源エネルギー庁「太陽光発電について」(2026年1月)です。パワーコンディショナは10〜15年でメーカーの機器保証が切れる一方、FIT制度の費用計算では20年で1回の交換が前提に置かれています。交換の判断材料は太陽光パワコンの寿命と交換費用で詳しく整理しています。
維持費は制度の想定より1.9倍かかる実測値です
点検と交換を合計した維持費の実勢値は、5,740円/kW/年です。同じ委員会資料が上の実測値から換算した金額で、2026年度のFIT想定値3,000円/kW/年の1.9倍にあたります。
| 区分 | 単価 | 5kW・20年の総額 |
|---|---|---|
| FIT制度の想定値(2026年度) | 3,000円/kW/年 | 30.0万円 |
| 実勢値(ヒアリング調査ベース) | 5,740円/kW/年 | 57.4万円 |
| 差額 | 2,740円/kW/年 | 27.4万円 |
換算式は「(定期点検3.8万円×5回+パワーコンディショナ交換38.4万円)÷5kW÷20年」です。設置時のシミュレーションで維持費を3,000円/kW/年で見積もっていた場合、20年間で27.4万円の想定外の支出が発生します。回収期間の考え方は太陽光発電の設置費用の相場と合わせて確認してください。
同じ委員会資料には、2025年1〜8月の定期報告データの88%が維持費0円/kW/年だったことも記載されています。委員会自身が「対象年に点検費用や修繕費用が発生していない案件が多く存在する可能性」と注記しており、推奨されている定期点検が実務ではほとんど行われていない実態を示します。発電量の低下に気づかないまま数年が過ぎる家庭が多いのは、この点検の空白が背景にあります。
自分で確認する範囲と業者に依頼する範囲の線引き
屋根の上と電気配線に関わる作業は、すべて業者の領域です。地上とモニタでできることだけを自分で行い、それ以外は依頼します。
- モニタの月別・時間帯別の発電量の推移
- 期待発電量との差の計算
- パワーコンディショナの運転ランプとエラーコード
- 地上から見える範囲のパネルの汚れ・破損
- 周辺の樹木や建物が増えていないか
- 屋根に上がっての点検・清掃
- ストリングごとの発電量測定と断線の特定
- 接続箱・ケーブルの絶縁抵抗の測定
- パワーコンディショナの内部診断と交換
- ホットスポットの有無のサーモグラフィ調査
依頼先は設置した施工店が第一候補です。連絡が取れない場合や施工店が廃業している場合は、メーカーのサポート窓口に型番を伝えると点検業者を案内してもらえます。
よくある質問
曇りの日でも発電しますか
発電します。全天日射量には雲を通した散乱光も含まれており、曇天の日でも出力はゼロになりません。月別の期待発電量は曇りや雨の日も含めた30年分の平均値ですので、その月に晴天が続けば期待値を上回ります。
パネルを掃除すれば発電量は戻りますか
汚れが原因であれば戻りますが、まとまった雨で回復しない汚れかどうかを先に確認してください。10mm以上の雨のあとに発電量が戻る場合、汚れは雨で流れていますので清掃の効果はありません。鳥のフンや落ち葉のように雨で流れない付着物が特定できたときだけ、業者の清掃を検討します。
経年劣化はどのくらいのペースで進みますか
年単位でしか判別できないほど緩やかです。月別の期待発電量との差が毎年少しずつ広がっているかどうかで判断します。1年で目に見えて落ちた場合は劣化ではなく、汚れ・影・機器の異常のいずれかです。劣化の進み方と保証の関係は太陽光パネルの寿命は何年かで扱っています。
売電量が減っているのに発電量は変わっていません
その場合は設備ではなく、家庭内の消費が増えています。発電した電力を自宅で使った分は売電に回りませんので、在宅時間や家電の使い方が変わると売電量だけが減ります。切り分け方は太陽光発電を設置したあとの請求書の見方と自家消費率を上げる方法で確認できます。
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発電量の低下を切り分ける3ステップ
-
その月の期待発電量を出す
設備容量に年間発電量の想定(1kWあたり1,000kWh前後)を掛け、上の月別配分表の割合を掛けます。5kWの11月なら5,000kWh×5.57%=278kWhです。モニタの実績値との差が20%以内なら、そこで終わりです。
-
0円でできる3つの確認を行う
時間帯別のカーブに毎日同じ時刻の谷がないか、まとまった雨のあとに回復するか、パワーコンディショナにエラー表示が出ていないかを見ます。この3つで影・汚れ・機器異常を切り分けられます。
-
3か月連続で20%以上下回ったら点検を依頼する
施工店かメーカーのサポート窓口に、設備の型番と月別の実績値・期待値の差を伝えます。定期点検の費用は5kWで1回3.8万円が実勢値です。設置から10年以上経っていればパワーコンディショナの交換時期にあたりますので、蓄電池の後付けを同時に検討すると工事費を1回にまとめられます。
期待値を持たずにモニタの数字だけを見ていると、正常な季節変動を故障と誤認し、逆に本当の異常を「冬だから」と見過ごします。月別配分表を一度手元に置くだけで、この両方を防げます。
